円高進行で日本経済は再び窮地に? キャリー取引の影響を探る
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月20日 12時30分
物価上昇に消費者が悲鳴
もちろん諸外国と比べると、日本の政策金利はまだ非常に低い。日銀は、短期金利(無担保かつ翌日返済される銀行間借入金利)を、従来の0〜0.10%から0.25%に引き上げたが、アメリカの短期金利は5.5%だ。
それでも今回の日銀の措置には、8年にも及んだ金融緩和策(その目的はまさにいま問題となっている物価上昇を引き起こすことだった)との決別を改めて明確にしたのだ。
7月31日の利上げ決定後の会見で、植田和男日銀総裁は強い姿勢を示した。経済・物価のデータが「見通しどおり」になり、「ある程度蓄積すれば、当然、次のステップに行く」と、さらなる利上げの可能性を明確にしたのだ。
その背景には、大幅な円安が物価を押し上げて、消費に大きな打撃を与えている現状がある。確かに、生鮮食品を除く消費者物価指数は6月の時点で2.6%上昇と、危機と呼べる水準では到底ない。
だが、一般市民の生活に影響が出ているのは明白だ。なにしろ賃金上昇が物価上昇のペースに追い付かず、実質賃金は26カ月連続でマイナスとなっている。エネルギーと食料のほとんどを輸入に頼る国で、輸入コストの上昇は実体経済と個人消費を直撃する。
そこで日銀は、円安を抑制するため、大規模な市場介入を何度か試みてきた。今年4月29日には過去最大となる5兆9185億円、5月1日にも3兆円を超える円買い・ドル売りの市場介入を行った。
ところが7月末の決定は、史上最高値圏にあった株価に打撃を与えた。8月5日の日経平均株価は12%安と、1日の下落率としては歴代2番目となり、7月11日の高値と比べると27%も下がった。
日銀のメッセージに課題
日銀の突然の利上げと円高で市場に不安が高まっていたところに、予想を下回るアメリカの雇用統計や、伝説の投資家ウォーレン・バフェット率いる投資会社が保有していたアップル株を大量に処分したというニュースが入ってくると、市場には悲観的なムードが漂うようになった。
結果的に、8月5日のアメリカ市場の下げ幅はさほど大きくなかったこと(ダウ平均は2.6%安にとどまった)も、大した安心材料にはならなかった。比較的堅調な企業業績など明るいニュースはすっかり影が薄くなり、暗い雰囲気が支配的になった。
とはいえ、こうした動揺の大部分が24時間以内に起きたことは、今回の急落がさほど深刻な性質のものではないことを物語っている。実際、6日の東京市場は大幅に反発し、日経平均は前日比10.2%高と、1日の上昇率で歴代4位を記録した。
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