インターネット上の「黒歴史」は削除できる...デジタル時代に紙で文字を残し続ける意味とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月28日 11時5分
小川 デジタルメディアは思想の形態を変えてしまったという影響力の大きさも感じます。SNSは少ない文字数で表現しなければならないので、ある程度の分量のある文章を書く時とは、思考・思想がまったく異なります。
また、紙媒体は印刷されて残るので、間違った記述を訂正するにはまた新たな文章を書いていく必要があります。しかし、デジタルではちょっと手直しできるという可塑性があります。
テクノロジーが新たな表現の場所や媒体を生み出すなかで、思想形態や流通方法を変えてしまった。これはどちらが良いということではなく、思考方法と存在意義の異なるものが共存し、いろいろな形があってよいのではないかということです。
田所 確かに、紙媒体は印刷物となった時点で言説を確定させる面があります。歴史の一次資料に可塑性があっては困りますが、より可塑的なデジタル世界での表現方法とは、棲み分けができるかもしれませんね。
小川 戦争に関する本を読む時に、実際の戦場の爆音を聴きながら臨場感を味わうという経験が、デジタル・エスノグラフィーでは簡単に実現できます。
とはいえ、あらゆるものがデジタルに取って代わられることになるとは思いません。想像力を働かせて、行間を読むという行為は紙媒体ならではの楽しみ方であり、紙媒体にしか表現できない部分もあります。デジタルと紙が、それぞれが「別腹」として存在するのが良いのではないでしょうか。
田所 音源や写真なども入れ込み、さらに可塑性もあるデジタル媒体と、従来の紙媒体が、今後どのようにコラボできるのか。この点は、テクノロジーを駆使した先進的な美術館や博物館の展示なども、参考になるかもしれませんね。
トイアンナさんはいかがでしょうか。
トイアンナ 私は、紙媒体の機能は2つあると考えています。1つは「心理的安全性」のもとで議論できるという点です。
インターネットでは似たような人々の小粒なコミュニティや井戸端会議になりがちです。しかし、紙上では立場も思想も異なる人たちを1つのプラットフォームに釣り上げることができます。同じ雑誌のなかで、まったく逆のこと言っていても殴り合わなくていい場が担保されています。
もう1つは、記録を残すという点も重要です。検索すれば何でも出てくるように見えるインターネットですが、Googleはアルゴリズム上、常にコンテンツを更新しないと検索結果の上部に表示されない仕組みになっています。
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