インターネット上の「黒歴史」は削除できる...デジタル時代に紙で文字を残し続ける意味とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月28日 11時5分
過去にどんな素晴らしい作品や論考をインターネット上に残していても、それだけではいくら検索してもヒットしません。よく「デジタルタトゥー」と言われますが、記録という意味では紙のほうが、もっと言えば石版のほうがはるかに残ります。
どんなに影響力があるSNSのつぶやきも、少し時間が経てば忘れ去られてしまいます。紙で記録を残している『アステイオン』のほうが、「この時代の人はこんなことを考えていたのか」と後世の人が振り返る資料になる可能性が高いと思います。
小川 まさにおっしゃる通りで、インターネット上の「黒歴史」は削除できますし、書き換えることもできます。新しく立派なものにすらアップデートできてしまいますよね。
左より田所昌幸氏、小川さやか氏、トイアンナ氏、鷲田清一氏
トイアンナ 実は祖父の家の本棚が二重扉になっており、過去に左翼活動家であったことを偶然知りました。それは紙で残っていたからこそ、私は知ることができたのです。これがインターネット上であれば、おそらく祖父が活動家であった事実は掴めなかったはずです。
ログが残るのはむしろ紙媒体です。『アステイオン』には今後も「残す機能」を担ってほしいですし、ぜひ後世に歴史を作っていってほしいと思っています。
田所 逆説的ではありますが、「紙媒体のほうが残る」というのは事実だと思います。しかし、その記録が「残る値打ちのあるもの」でなければいけません。
『アステイオン』も皆さんの本棚の裏側に入れておいていただくと、100年後に誰かが発見してくれるかもしれません(笑)。そういう意味では、100年後にも読み返されるようなものを作るための「エール」と受け止めました。
本日は皆さま、お集りいただき、本当にどうもありがとうございました。
小川さやか(Sayaka Ogawa)
立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。1978年愛知県生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程指導認定退学。博士(地域研究)。専門は文化人類学、アフリカ研究。著書に『都市を生きぬくための狡知――タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(世界思想社)、『チョンキンマンションのボスは知っている─―アングラ経済の人類学』(春秋社)、『「その日暮らし」の人類学―─もう一つの資本主義経済』(光文社新書)など。
トイアンナ(Anna Toi)
恋愛・キャリア支援ライター。1987年生まれ。慶應義塾大学卒業後、外資系企業にてマーケティングに携わり、フリーライターに転身。専門は就活対策、キャリア、婚活、マーケティングなど。著書に『改訂版 確実内定』(KADOKAWA)、『モテたいわけではないのだが』(イースト・プレス)、『ハピネスエンディング株式会社』(小学館)、『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)など多数。
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