ヒズボラの戦闘員「約10万人」とイスラエルが全面開戦したらどうなる?
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月22日 15時10分
ダニエル・バイマン(ジョージタウン大学教授)
<レバノンはガザよりはるかに広く、ヒズボラは戦争を長引かせることもできる。イスラエルは勝利できない。衝突を避け、抑止力を維持するのが賢明だ>
イスラエルにとってパレスチナ紛争は長年、中東全体の広範な地域紛争の一部だった。
イラン、イエメンのイスラム教シーア派武装組織フーシ派、そしてハマスとの連帯を掲げてイスラエルに攻撃を仕掛けるレバノンのシーア派武装組織ヒズボラ。こうした敵対勢力との小規模の対立が、ここにきて一段と激化するリスクが高まっている。
きっかけはイスラエルによる相次ぐ暗殺だ。イスラエルは7月末、レバノンの首都ベイルートでヒズボラの司令官フアド・シュクルを殺害。直後にイランの首都テヘランの中心部で、ハマスの政治指導者イスマイル・ハニヤを暗殺したとされる。
イスラエルとヒズボラの対立は、どちらかの判断ミス、あるいは戦闘を回避できないなら早めに戦うほうが得策だという判断が引き金となって、限定的な衝突から全面戦争にエスカレートする可能性がある。
だが全面戦争は両陣営に壊滅的な打撃をもたらす。しかもイスラエルは、仮に軍事的に勝利しても戦略的に得るものは少ない上に、ヒズボラとの対立も解消しない。
イスラエルにとっては、ヒズボラの脅威が続くとしても、抑止力を強化して戦闘を回避するほうが賢明だ。
ハマスがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けた昨年10月7日まで、イスラエル国民は北部国境地帯のヒズボラの存在を渋々受け入れていた。
ヒズボラの約10万人の戦闘員と大量のロケット備蓄を見れば軍事衝突が破滅的な結末をもたらすことは明らかで、双方ともそれを認識し、不安定ながらも抑止力が保たれてきた。
背景には、2006年の34日間に及ぶ軍事衝突の記憶があった。当時、ヒズボラはイスラエルに怒濤のロケット攻撃を仕掛け、レバノンに侵攻したイスラエル軍に大規模な損害を与えた。
もっとも、ヒズボラ側の被害も甚大で、双方ともその後長らく新たな衝突は望まなかった。
だが、そんな不安定な平和は昨年10月の奇襲を機に一変し、両国間で多数のロケット弾が飛び交っている。また、ハマスの奇襲攻撃で約1200人の命を奪われたイスラエルは心理的に大きな傷を負った。
その結果、イスラエルのリスク計算は激変した。今やイスラエル国民は、ヒズボラよりずっと弱いハマスの奇襲でさえこれほどの被害を出したのだから、ヒズボラの攻撃がもたらす苦しみはどれほどのものか、と自問している。
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