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ヒズボラの戦闘員「約10万人」とイスラエルが全面開戦したらどうなる?

ニューズウィーク日本版 / 2024年8月22日 15時10分

イスラエルは1982年にもレバノンに侵攻して南部に駐留したが、小規模な攻撃がやむことはなく、イスラエル側の犠牲者は着実に増えて2000年に撤退を余儀なくされた。

今のヒズボラははるかに手ごわい。どれだけ損害を被ったとしても、軍勢の大部分をいったん国境地帯から引き揚げ、イスラエル軍が撤退したら戻ってくるだけだ。イスラエル軍が駐留を続けた場合も、彼らはゲリラ攻撃を繰り返すだろう。

出口戦略を描けない戦い

イスラエルは、レバノンの紛争で侵略者と見なされれば、国際社会からもアメリカからもさらに批判を浴びることになる。既にガザの戦争をめぐってイスラエルに対する世界の評価は低く、特にアメリカの若い世代は多くの人が批判的だ。

サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)では、政権はヒズボラとその後ろ盾のイランを嫌悪している。

だが戦争の壊滅的な被害とレバノンの一般市民の苦しみを目の当たりにすれば、世論はイスラエルへの嫌悪を募らせ、反ヒズボラの軍事作戦を支援できなくなるだろう。

おそらく最も重要なのは、ガザと同じように、レバノンの統治問題を解決するすべがないことかもしれない。

ヒズボラと同程度の力を持つライバルは存在せず、ヒズボラが軍事的に敗北したり別の勢力に抑圧されたりしても、ヒズボラそのものが消滅することはなさそうだ。

そう考えると、抑止力を維持するアプローチがより効果的だろう。

ヒズボラも、ガザの停戦が実現すれば攻撃をやめると示唆している。バイデン米政権のエネルギー担当特使アモス・ホックスティーンは、レバノンに利益をもたらしつつ、イスラエルの安全保障上の立場を強化するような取引の仲介を模索中だ。

ヒズボラは長年、イスラエルの軍事力に適切な敬意を抱いており、ガザの惨劇は、イスラエルが本気なのだと改めて実感させられている。

また、ヒズボラの指導者たちは、ハマスがガザのことを気にかけているより、はるかに真剣にレバノンのことを考えている。レバノン経済は19年以降、破綻しており、新たな戦争は国を完全に崩壊させかねず、そうなればヒズボラが責任を問われる。

このようなアプローチは、根本的に満足のいくものではない。

和平交渉が理想的に進めばヒズボラの戦闘員はイスラエル国境から遠ざかるだろうが、ヒズボラはイスラエルにとって脅威であり続ける。とはいえ、満足できない抑止力でも、満足できない結末を迎える壊滅的な戦争よりはましだ。

ただし、イスラエルの国家安全保障上の意思決定は非常に政治的で、短期的な計算に支配されている。実際、ガザでの戦闘が始まってから10カ月以上になるが、いまだに現実的な出口戦略を描けていない。

こうした短期的な視野は、先制攻撃を行ってから長期的な目標を考えようということになりかねない。

イスラエルの指導部に対し、費用がかさんで逆効果になるだけの戦争を回避する政治的な大義名分を与えるためにも、全面戦争を回避するようにアメリカと同盟国が圧力をかけ続けることが不可欠だ。

From Foreign Policy Magazine

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