テレグラムCEOドゥロフは、国境を突き破るIT巨人
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月6日 17時30分
河東哲夫
<今回の逮捕劇は「言論抑圧」ではなく、テレグラムが国家の規制を突き破っているところに問題があった>
8月24日、ロシア発の世界的SNSプラットフォーム「テレグラム」の創設者でCEOのパーベル・ドゥロフは、自家用ジェットでパリ近郊の空港に降り立ち、フランス警察に逮捕された。児童ポルノ等の犯罪に関与した容疑とされる。
ドゥロフはまだ39歳。サンクトペテルブルク国立大学文学部長も務めた父親と共に、幼少期をイタリアのトリノで過ごしたが、教育はその後にロシアで受けている。フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグにも似て、大学では仲間で使うインターネットサービスを立ち上げ、それをベースにロシア版フェイスブック「フコンタクテ」を立ち上げる。
ロシアの青年には自由闊達な者が多く、ドゥロフも大学で美人コンテストなどを組織しては楽しんでいたらしい。卒業後、フコンタクテが大きくなると優秀な青年たちを募集するため、エスコートガールたちをはべらせ、自分を金持ちのマッチョとして売り出す。「俺は『ITオタク』なんかじゃない、君たちも俺みたいになりたくないか?」というわけだ。
彼はリベラルで、かつロシアを愛する。20代後半には「ロシアをよくする方途」について文章を発表し、テレグラムが世界に台頭していく過程でも、これが「ロシア発」であることに誇りを示している。
とはいえ、彼はイタリアで育ち、大学では英語を専攻した国際人だ。2014年にはロシア連邦保安局(FSB)から、フコンタクテを使ってウクライナでの反政府運動を組織している人々の個人情報を渡せと言われてこれを拒絶し、国外に移住した。今ではアラブ首長国連邦(UAE)、フランスなどの国籍を手に入れ、13年に立ち上げたテレグラムの拠点をUAEのドバイに置き、自身もそこに居住する。財産は150億ドル以上とも言われる。
誰もが利用するテレグラム
ロシア当局は一時テレグラムをつぶそうとしたが、技術的に手に負えず、笑いものになった。その挙げ句、今年獄死したアレクセイ・ナワリヌイのような反政府分子と並んで、プーチン大統領、メドベージェフ前大統領をはじめお偉方までが常用するようになった。まるでローマ帝国末期のキリスト教だ。
ウクライナ戦争でも、テレグラムは「万人に」利用されている。ドゥロフ自身、母方がウクライナ系で、戦争についてはいずれかの肩を持つことがない。ロシア国粋主義のアレクサンドル・ドゥーギンや、発言が過激にすぎるとして投獄された過激右派イーゴリ・ギルキンなどもテレグラムを使うが、クリミアから「射撃目標」のありかをウクライナ軍に通報するウクライナ系住民もテレグラムを使う。
ドゥロフが逮捕されたとき、「これはロシア当局がテレグラムをつぶすため、フランスと裏で手を握って仕掛けたのかもしれない」と筆者は思った。だが調べてみると、そうではないようだ。これはロシアの「言論の自由」弾圧事件ではない。ロシア当局は、「フランスの言論の自由抑圧事件だ」とちゃかしているが。
言ってみれば、犯罪に利用されていることについて、テレグラムが真剣な対応措置を取らず、フランス当局にも犯罪者の個人情報を渡そうとしなかったこと、つまり国家の規制を突き破っていることに問題がある。フェイスブックならこのあたり、当局にもっと柔軟に対応するだろう。今や世界人のドゥロフ。
39歳独身だが、精子提供で世界に100人以上の子がいるらしい。ネットだけでなく、リアルな世界でもネットワークを広げたいようだ。
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