派閥解消後の自民党総裁選、勝者が直面する「有事」の現実とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月5日 15時40分
トバイアス・ハリス(ジャパン・フォーサイト創業者、日本政治研究者)
<派閥が溶けて、10人近くが乱立する前代未聞の事態に。勝者は喜ぶ間もなく外交・経済の「有事」に放り込まれる>
自民党の総裁選が、かつてない盛り上がりを見せている。10人(もしかしたらそれ以上)がエントリーし、自民党総裁=日本国首相の座を必死で争うリアリティー番組。そんな感じがする。現に自民党は歴代党首の顔を並べたポスターで、今度の総裁選を「ザ・マッチ」と呼んでいる。
だが、今回はこれまでの総裁選と決定的に異なる点がある。今年1月の岸田文雄総裁による派閥解消宣言を受け、党内の各派閥は(程度の差はあれ)解消に向かっており、従来のように組織的な動きはできない。
例えば、候補者の出馬の可否を決める判定役になれない。立候補に必要な推薦人20人を確保できた野心的な政治家なら誰にでも門戸が開かれている。もはや派閥は所属議員に対して、誰に投票せよと指示したりできない。かくして約70年の党史に前例のない大乱戦が繰り広げられる事態となった。
押し合いへし合い状態から、いったい誰が浮上するのかを予測するのは不可能に近い。候補者全員が1票でも多くの国会議員票と党員・党友票を獲得すべく競い合っている。
大混戦になるのは、自民党にとって望むところでもある。そういう意味で、アメリカの民主党に似ていなくもない。米民主党は今秋の大統領選で、現職大統領のジョー・バイデンでは勝てない可能性が濃厚になっていた。そこで擁立候補をカマラ・ハリス副大統領にすげ替えたところ、爆発的に支持が広がり、献金もボランティアも増えたうえ世論調査での支持率も急伸した。
自民党の支持率も、岸田が出馬辞退を表明した途端に急上昇した。日本経済新聞の調査では、次の衆院選では自民党に投票するという人が9ポイントも増えた。総裁選への関心は一般国民の間でも高い。朝日新聞の調査では67%が関心ありと答えた。
リアリティー番組を見る感覚
ただし大半の国民は自民党総裁選で投票する立場にない。だから有権者として熱中しているのではなく、リアリティー番組を眺めているくらいの感覚だろう。それでもこれで、自民党が次の総選挙で国民から厳しい審判を受けずに済む確率が高まった。なにしろ最大野党の立憲民主党も本命不在の代表選を控えているし、日本維新の会は存亡の危機にある。
それでも自民党の指導者たちは、まだ気を緩めるわけにいかない。次期総裁は2つの異なる役割、それも必ずしも補完的ではない役割を果たす必要があるからだ。
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