「ターフ/TERF」とは何か?...その不快な響きと排他性の歴史
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月26日 15時0分
一般に、ジェンダーアイデンティティ理論の擁護者が、批判に対して攻撃的な態度をとる傾向があるのはなぜだろうか。その答えの少なくとも一部は、ジェンダーアイデンティティ理論の知的前提、とくにバトラーの哲学的世界観にあるように思われる。
バトラーは、社会的であれ生物学的であれ、男性や女性というカテゴリーは必然的に「排除的」であると考える。つまり、男性と女性の自然で「正しい」あり方について、一定の制限的な理想やステレオタイプを優先させるものだと考えるのだ。
この見解によれば、社会的または生物学的な女性なるものを自然で、あらかじめ与えられたカテゴリーとして主張しようとすれば、暗黙のうちに含まれた理想を満たさず社会的に疎外される人びとを、つねにどんな理由であれ、事実上「排除」することになり、それゆえに批判されるべきである、ということになる。
この背景には、さらに哲学の世界で「スタンドポイント認識論」と呼ばれているものが影響している。これは、ある種の知識は社会的に規定されており、特定の社会的状況に置かれている場合に限りその種の知識を容易に獲得することができる、という考え方である。
この用語はもともとマルクス主義に由来するもので、抑圧された人びとは、自分自身の視点と自分を抑圧する者の視点という2つの視点や立場つまり「スタンドポイント」を同時に洞察できるのに対し、抑圧者は1つの視点(自分自身のそれ)しか持つことができないという考え方をいう。
労働者は資本家のルールと世界観に従うので、資本家の立場を洞察することができる。それに加えて、労働者は、自分たちが社会的に置かれている立場について、資本家にはない深い知識をも持っている。
この考え方は、フェミニズム、批判的人種理論、トランス運動など、いくつかの社会運動で採用されている。
トランス活動家によって展開されたスタンドポイント認識論によれば、トランスの経験についての立場に基づく知識には、シス[編集部注:生まれ持った性別と性自認が一致している人]ではなくトランスの人びとだけが得られる特別な形態があるという。
たとえば、トランスの人びとだけが「シス特権」の悪質な影響や、それがほかの形態の抑圧とどのように交差し、ある種の生活体験を生み出すかを正しく理解することができるとされる。
いくつかのフェミニズムや批判的人種理論のバージョンでも起きたことだが、大衆文化を通じて変容することで、この考え方はただちに次のようなものになった――ジェンダーアイデンティティに関する哲学的な問題を含め、トランスの人びとの性質や利益について正当に何かを語ることができるのはトランスの人だけだ。
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