「21世紀の首都圏はがらんどう」...サントリーホールが生まれた1980年代を振り返る
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月9日 10時40分
左より片山杜秀・慶應義塾大学教授、文芸評論家の三浦雅士氏、アステイオン編集委員長の田所昌幸・国際大学特任教授。本座談会はサントリーホール「ブルーローズ」(小ホール)で2024年2月2日に収録した。撮影:池上直哉 協力:サントリーホール
文化継続を担うのは
片山 その次の世代になると、日本が戦争に負けてどん底になっても、クラシック音楽への憧れを持ち、「文化が大事」という情念を起動させた世代とは違ってきますよね。政治家で言えば戦後生まれの菅直人くらいの、子どもの頃からそこそこ豊かで、学生運動などをやり、音楽はフォークやロックで十分というジェネレーション。
80年代には、サントリーホールが建ち、オーチャードホールが建ち、官僚や政治家にもそういう "古風" な価値観に共鳴する実力者が世代的に居ましたから、東京都も東京芸術劇場を建てたし、彩の国さいたま芸術劇場とか川崎市のミューザとか、都市周辺にまで波及していきました。もちろん新国立劇場もできた。しかし、「もっと建てよう」というムードはその辺までだったのではないですか。
さらにその後は、「何でこんなものを建てたのか。金がかかるだけじゃないか」となり、さらに、先ほど言ったように古いホールなどは老朽化で取り壊しとなって、「後継ホールをつくるのはやめましょう」ということで、80年代、90年代に建って、その前からあったものと組み合わさって豊かだった環境が今日では続かなくなっています。
90年代以降、日本が経済的に調子が悪くなりましたが、世界の中でものすごく貧しい国に転落したわけじゃない。やる気があれば「新しいホールを建てましょう」とか、「もっと良いホールにしましょう」とか、そのくらいの資力はまだまだあると思いたい。
でも実際にはそういうふうには回っていない。国立劇場で歌舞伎や文楽、雅楽、民俗芸能公演をたくさん観てきた人間は「その国立劇場の建て直しに何年かかるか分からないなんて悪い冗談だ。伝統文化が滅びるぞ」と思う。けれどもその心配をする力がとても弱い。
田所 それが問題にもならないから、三浦さんは悲憤慷慨しておられるわけですね。
三浦 まさにその通り(笑)。文化的なものを持続しようという日本の民間パワーは非常に大きいと僕は思っています。例えば1960年代のアングラとか暗黒舞踏とか。寺山修司にしても、鈴木忠志、唐十郎、土方巽にしても、彼らに政府が金を出すなんていうことはあり得ない。
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