アメリカ人の7割超が1度は貧困に陥る...「貧困は縮小している」という政府の統計とは異なる現実
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月9日 9時16分
具体的に言うと、アメリカ人の58.5%が、20歳から75歳になるまでの間の少なくとも1年間は、政府が定める貧困ラインを下回る生活を経験する。
この範囲を、貧困または貧困に近い状態、つまり「所得が貧困ラインの150%以下」に広げると、一生の間に1年は貧しい暮らしを経験するアメリカ人の割合は76%まで跳ね上がる。
国勢調査局の報告書では、現在、貧困に直面している人は11.1%、つまり9人に1人だが、私の研究では、アメリカ人の4人に3人が、人生のどこかの段階で貧困または貧困に近い状態を経験する。
従って貧困の問題は、「誰かの問題」ではなく、「自分の問題」として認識されるべきだ。
──アメリカの貧困は、他の先進国の貧困とどう違うのか。
西側先進国の中で、アメリカは最も貧困率が高い国の1つだ。労働力人口、子供、65歳以上、全人口などのカテゴリー別に見ても、貧困の範囲と深さという意味ではアメリカはトップに近い。
その大きな理由の1つとして、アメリカの連邦政府は、よその国と比べて、人々が貧困に陥らないようにするための施策が大幅に少ないことが挙げられる。アメリカのセーフティーネット(安全網)は、国民が生活苦に陥るのを防ぐという点では比較的弱いのだ。
だから貧困の定義に該当する人の割合が、先進国の中でトップレベルになっている。所得格差や富の格差のレベルも、よその国と比べて極端に大きい傾向がある。
──アメリカの貧困率の長期的パターンは何を意味するのか。
20世紀半ば、アメリカは貧困削減の面で大きな進歩を遂げた。1959年の貧困率は22.4%だったが、73年には11.1%へと半減したのだ。その背景には、60年代の好況と、政府が推進した貧困撲滅政策がある。
だが、73年以降、アメリカの貧困率は11〜15%のレンジにとどまっている。総じて景気がいいときはやや低下するが、景気低迷期は上昇する傾向がある。実際、2023年の貧困率は1973年と同じ(11.1%)だ。補助的貧困率も12.9%で、アメリカの貧困が過去50年間改善していないことを示している。
ただ、貧困が改善した領域も2つある。まず、高齢者が貧困に陥る可能性が低下した。1959年は65歳以上の貧困率が35.2%と、どの年齢層よりも高い水準にあった。それが2023年は9.7%となり、どの年齢層よりも低くなった。
これは社会保障給付の拡大と、1965年に導入されたメディケア(高齢者医療保険制度)とメディケイド(低所得者医療保険制度)によるところが大きい。それがなければ、今ごろ高齢者の貧困率は40%に達していただろう。
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