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ついにイスラエルが地上侵攻を開始...それでもレバノン軍が動かない理由

ニューズウィーク日本版 / 2024年10月18日 16時5分

まず、多くの欧米諸国は、ヒズボラをテロ組織に指定しているから、ヒズボラに味方すれば、レバノンはテロ支援国家と見なされかねない。

それに2006年以降、レバノンはアメリカから計30億ドル以上の軍事援助を受けてきた。近年の経済危機で軍人への給与支払いが滞ったときも、アメリカが助けてくれた(世界銀行によると、23年2月の時点で、レバノンの通貨ポンドの価値は危機前の2%以下に落ち込んだ)。

アメリカの援助で得た武器を、アメリカの重要な同盟国であるイスラエルに対して使うのは難しいだろうと、専門家はみる。また、レバノン軍にとっては、この先もアメリカの援助が頼りだ。

「レバノン軍は、レバノン唯一の正当な防衛機関としての役割」をヒズボラに奪われることなく「維持・強化していくという難しい課題に直面している」と、中東問題研究所(ワシントン)のフィラス・マクサド上級研究員は語る。

ヒズボラは長年、イスラエルによるヒズボラ攻撃は、レバノンの主権を侵害する行為であり、撃退する必要があると主張してきた。また、欧米諸国は故意にレバノン軍を弱く維持していると非難してきた。そして、ヒズボラはレバノン軍の競争相手ではなく戦友や同盟のような存在だとし、「人民、軍隊、抵抗」というスローガンを掲げてきた。

だが、多くのレバノン市民は、ヒズボラは1982年と2006年のイスラエルによるレバノン侵攻を利用して、自らの影響力を拡大してきたと考えている。1990年に収束したレバノン内戦後、国内の武装勢力が全て武装解除したときも、ヒズボラだけは武器を維持した。

このため現在のレバノン国内では、イスラエルのピンポイント攻撃によりヒズボラの幹部が次々と殺害され、その拠点が破壊されれば、レバノンでより公平な権力分配が実現するのではないかとひそかに期待する向きもある。

とはいえ、イスラエルによるレバノン南部とベイルート郊外ダヒヤへの爆撃は、120万人の避難民を生み出した。その大部分はシーア派で、彼らが避難してくることで、レバノン社会の安定のために意図的に維持されてきた、宗派による地域的な住み分けが危うくなっている。

近隣地域にしてみれば、あまりにも多くのシーア派(ましてやヒズボラ関係者)が流入してくれば、自分たちのコミュニティーがイスラエルの爆撃のターゲットになりかねない。このため多くの地域は、過度に多くの避難民を受け入れることには消極的だ。

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