ついにイスラエルが地上侵攻を開始...それでもレバノン軍が動かない理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月18日 16時5分
イスラエルのターゲットになるのを避けるために、ヒズボラのメンバーが避難先の村から追い出されたケースも過去にはあった。
イスラム教ドルーズ派が大多数を占める町ショアヤでは、21年8月、ヒズボラがイスラエルに向けてロケット弾を発射するのを阻止するため、ヒズボラのトラックが押収された。
レバノン軍は、イスラエルとヒズボラの争いに直接関わるよりも、紛争後に停戦合意(的なもの)が各地できちんと守られるよう確保する役割を担うだろう。
レバノンでは、かつての内戦終結時に、大統領はキリスト教マロン派、首相はスンニ派、国会議長はシーア派から出すという権力配分が決められた。そんななか軍は唯一の中立機関であり、宗派間の緊張が生じたとき唯一仲裁に入ることができるアクターと見なされている。
その役割を維持するためにも、軍は中立を保ち、今回の紛争でヒズボラに味方することを避けなければならない。だが、紛争が長引けば、かねてから経済危機と貧困に揺れるレバノン国内の亀裂が一段と悪化する恐れがある。
「内戦の不安がささやかれることもあるが、今のところ皆、非常に賢明に振る舞っている」と、国会議員のアラン・アウンは語る。「だが、確かなことは言えない。紛争後の各政党の行動が重要になる」
ナジブ・ミカティ首相は、イスラエルとレバノンの事実上の国境であるブルーライン(撤退ライン)にレバノン軍を配備するとともに、ヒズボラがこのラインからさらに後退することを提案している。
軍は唯一の中立的な組織
だが、これが実現するためには、ヒズボラが撤退に合意するか、敗北するか、あるいはイスラエルが方針を転換して停戦に合意するしかない。
今回の紛争で、レバノン軍がどのような行動を取るかは、おそらく今後のレバノン政治にも影響を与えるだろう。というのも、レバノン軍のジョゼフ・アウン最高司令官はマロン派で、次期大統領として反ヒズボラ派の間で最大の支持を集めているのだ。
カーネギー中東センター(レバノン)のシニアエディターであるマイケル・ヤングは9月28日、ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師が暗殺された今、レバノンの頼りは「まだ機能している唯一の国家機関である軍であり、ジョゼフ・アウンの(大統領)選出の動きが拡大するだろう」と、X(旧ツイッター)に投稿している。
「なぜかって? それは軍が国内の安定を維持する上で重要な役割を果たすとともに、(ヒズボラの影響が強い)南部の治安確保でも重要な役割を果たすからだ」
この1年間、イスラエルとヒズボラは互いに爆撃を続けてきたが、レバノン軍が応戦したのは1度だけと、軍は10月3日の声明で主張している。
「イスラエルがビントジュベイル(レバノン南部)のレバノン軍駐屯地を爆撃し、兵士1人が死亡」したため、「この駐屯地の人員が爆撃の起点に向けて応戦した」ときだ。
どうやら今回の紛争で、レバノン軍の直接関与につながるレッドライン(越えてはならない一線)は、レバノン軍の拠点への攻撃と、全面的なレバノン侵攻・占領のようだ。
ただ、イスラエルの激しい攻撃が、国家としてのレバノンのプライドを刺激するようなことになれば、どうなるかは分からない。
From Foreign Policy Magazine
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