選挙干渉、フェイクニュース...「デジタル技術は民主主義に合わない」を再考する
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月28日 11時0分
デジタル権威主義の拡散?
また、冒頭で述べたように、米中対立が深まる現代国際政治においては、中国がデジタル技術を通じて権威主義を拡散し、それによって権威主義の台頭が生じているかのような言説がある。
しかし、多国籍なデジタルプラットフォーマーの排除に成功している国は中国以外にはほとんど存在しない。そのため、既に多国籍なデジタルプラットフォーマーに依存している国家が中国ほど強力なデジタル管理を国民に課すことも難しいだろう。
民主化「第三の波」50周年から「今」を眺めてみる
2024年は民主化の「第三の波」の発端となったポルトガルで独裁体制が打倒されたカーネーション革命の発生から50周年である。それを記念して、今夏、リスボンで開催されたInternational Political Science Association(世界政治学会)の会場に併設されたグルベンキアン美術館では、民主主義と美術館とAI(人工知能)の関係についての特設展示が行われていた。
その展示では、AIが提示する情報等が文化や歴史への正しい理解を阻害し、それが民主主義をもゆがめる危険性について警鐘が鳴らされていた。既に、デジタル技術は私たちの日常にも影響を与えており、それが政治にも影響しているのである。
『第三の波――20世紀後半の民主化』(川中豪訳、白水社、2023年)を著した政治学者サミュエル・ハンチントンは、1991年時点で将来にデジタル技術を使いこなす独裁が現れる可能性を示唆していた。それが今、現実のものとなっている。
しかし、ここまで見てきた通り、デジタル権威主義には「強さ」だけでなく「弱さ」がある。その「弱さ」の一部は、民主主義の「強さ」の裏返しともいえるだろう。
権威主義の波が訪れているともいわれる現代、デジタル技術を再び民主主義の「強さ」に結びつけることができるか。世界的な選挙の年でもある今年、それが我々に問われている。
大澤 傑(Suguru Osawa)
愛知学院大学文学部英語英米文化学科准教授。防衛大学校総合安全保障研究科後期課程卒業。博士(安全保障学)。専門は政治体制論(特に権威主義)、安全保障。他に、防衛大学校国際関係学科非常勤講師。主著に、『「個人化」する権威主義体制――侵攻決断と体制変動の条件』(明石書店、2023年)、『独裁が揺らぐとき――個人支配体制の比較政治』(ミネルヴァ書房、2020年)、『米中対立と国際秩序の行方――交叉する世界と地域』(東信堂、2024年[五十嵐隆幸と共編])など。
※本書は2022年度サントリー文化財団研究助成「学問の未来を拓く」の成果書籍です。
『デジタル権威主義――技術が変える独裁の"かたち"』(芙蓉書房出版、2024年)
大澤 傑[編著]
芙蓉書房出版[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
この記事に関連するニュース
-
「投票したい政治家も、政党もない」と絶望している人たちへ…ひろゆき「ダメな政治家から自分を守る方法」
プレジデントオンライン / 2024年10月27日 7時15分
-
「聖人・孔子」をプロパガンダに利用する中国の茶番 マルクスと孔子の対談動画が物笑いの種に
東洋経済オンライン / 2024年10月20日 18時0分
-
若者の「体制離れ」が止まらない…中国全土に広がる「毛沢東ブーム」に習近平政権が頭を抱える理由
プレジデントオンライン / 2024年10月18日 8時15分
-
オーストリア総選挙で「ナチス礼賛」の自由党が第1党、背景にコロナ禍で政府の規制より「個人の自由」を擁護
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月10日 17時24分
-
「内戦や武力衝突リスク」を左右する「3つの特徴」 2度目の紛争を回避した国の多くが持つ志向性
東洋経済オンライン / 2024年10月4日 14時0分
ランキング
-
1石破首相「先頭に立ち取り組む」と続投に意欲、野党との連立想定せず
ロイター / 2024年10月28日 15時38分
-
2英メディア、総選挙結果は「有権者の怒り過小評価」 「高市首相」に道開くとの指摘も
産経ニュース / 2024年10月28日 8時7分
-
3トランプ陣営、ヒスパニック系に差別的発言 ハリス陣営が非難
AFPBB News / 2024年10月28日 12時45分
-
4米大統領選、リベラル主要2紙のハリス氏支持見送りに激しい反発
AFPBB News / 2024年10月28日 16時18分
-
5ウクライナ、部隊に朝鮮語表現集 戦闘の前線に「武器を捨てろ」
共同通信 / 2024年10月28日 17時23分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください