いまや消費者は「試験場のモルモット」に...利益至上主義の巨大テック企業に飲み込まれた「AI」の未来
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月30日 9時51分
木村正人
<すさまじいペースで進む技術革新にまったく追いつけない AI規制。巨大テックは「中国脅威論」を隠れ蓑に規制を回避し、独占空間を拡大させ続けている>
[ロンドン発]米ブルームバーグのテクノロジー担当記者で新著『Supremacy』(筆者仮訳:覇権)を発表したパーミー・オルソン氏はロンドンのオフィスビルで「政府が技術革新の速いペースについていけない。このため、AI(人工知能)規制は遅れている」と指摘した。
ブルームバーグのテクノロジー担当記者パーミー・オルソン氏(筆者撮影)
新著の中でオルソン氏は、囲碁で世界最強の棋士を破ったグーグル・ディープマインド共同創業者デミス・ハサビス氏と、ChatGPTで旋風を巻き起こしたオープンAIのサム・アルトマン最高経営者(CEO)というAI開発を主導する巨人2人の軌跡に焦点を当てている。
今年のノーベル賞は物理学賞で機械学習の基礎となる手法の開発が選ばれたのに続き、化学賞でタンパク質の立体構造を予測するAIを開発したハサビス氏ら3氏が選ばれている。
AIはすでに私たちの生活に与え始めており、イデオロギー的対立、倫理的ジレンマ、社会的影響を引き起こしている。オルソン氏は、グーグルやマイクロソフトといった巨大テックへの権力集中と公共の利益を守るためのバランスの取れた規制が至急、必要だと提言している。
理想主義と現実的な企業利益の衝突
オルソン氏は「大規模言語モデルをベースとするChatGPTのような生成AIは大きな飛躍を意味し、狭いアプリケーションの枠を超えている」と、この2年間に起きたAIブームを振り返った。こうした進歩は巨大テックの優先順位を変え、AIに対する一般の関心を喚起した。
科学的好奇心、壮大なビジョン、ユートピア的願望に根ざしたAI技術は理想主義と現実的な企業利益が衝突するシリコンバレーの典型的なパラドックスに突き当たる。
ディープマインドは自律的な活動を続けるという前提でグーグルに買収された。
「AIが強力になれば、がんのような病気を治すのに役立つだろう。気候危機さえも解決するかもしれない。ちょっとクレイジーに聞こえるかもしれないが、これがハサビス氏が純粋にやろうとしていたことなのだ」とオルソン氏は語る。
しかし、非商業的なAGI(人間のような認知能力と自律性を持つ未来のAI)を作ろうというディープマインドの志は打ち砕かれ、グーグルの営利主義にのみ込まれた。ディープマインドの多くの関係者は同社の革新的なテクノロジーは一企業に独占されるべきではないと考えていた。
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