ネアンデルタール人「絶滅」の理由「2集団が互いに無視していた」...ゲノム解析から驚きの新説
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月4日 11時20分
「つまり5万年間、徒歩で10日ほどの距離で暮らしていたネアンデルタール人の2集団が互いを完全に無視して共存していたわけだ。これはホモ・サピエンスすなわち現生人類には考えられないことで、ネアンデルタール人の生物学的世界観は私たちホモ・サピエンスとは懸け離れていたに違いない」と、スリマックは述べている。
トーリンの発掘場所の堆積物を調べた結果、研究チームは当初、彼が4万~4万5000年前に生きていたと推測。「最後の」ネアンデルタール人──絶滅までの1000年間に存在した最後の1人ではないかと考えた。
ネアンデルタール人「トーリン」のあごの化石 XAVIER MUTH
ところが、歯やあご、頭蓋骨片の化石からDNAを抽出し、ゲノムの全ての配列を分析済みの他のネアンデルタール人の配列と比較したところ、考古学的データによる推定よりもはるかに古い時代である可能性が浮上した。
つまり、トーリンのゲノムは他の後期ネアンデルタール人とは大きく異なり、10万年以上前の集団のものにはるかに似ていたのだ。
この矛盾を解くため、研究者らはトーリンの骨と歯の同位体(同一の原子番号で陽子数は等しいが中性子数が異なる原子)を分析し、どんな気候で暮らしていたかを調べた。
後期ネアンデルタール人が生きていたのは最終氷期、一方、初期のネアンデルタール人ははるかに温暖な気候で暮らしていた。
絶縁状態がリスクを生む
分析の結果、トーリンは非常に寒い地域で暮らしていたことが明らかに。ゲノム解析の結果どおり、彼が後期ネアンデルタール人であることが証明された。
「このゲノムはヨーロッパ最初期のネアンデルタール人のものだ」と論文の筆頭執筆者の1人であるコペンハーゲン大学のマーティン・シコラ准教授(集団遺伝学)は報道発表で述べている。
既知のネアンデルタール人のゲノム配列との比較から、トーリンに最も配列が似ているのはイベリア半島南端の英領ジブラルタルで発掘されたネアンデルタール人であることが判明した。スリマックによれば、トーリンの集団がジブラルタルからフランスに移住した可能性を示唆しているという。
ローヌ渓谷(写真)で発見された「最後の」ネアンデルタール人は従来の見方を覆すかもしれない LUDOVIC SLIMAK
「つまり、ヨーロッパ最南端からフランスのローヌ渓谷までの地中海地域にこれまで知られていなかったネアンデルタール人が存在していたということだ」
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