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韓国のキム・ジヨンに共感する、日本の佐藤裕子たち...小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の爆発的ヒットの背景とは?

ニューズウィーク日本版 / 2024年11月2日 9時30分

日本の名前では「佐藤裕子」がそれにあたるそうだが、日本でこの小説がヒットした背景には「キム・ジヨン」であるがゆえの適度な距離感がかえって共感を生んだのかもしれない。

 

『キム・ジヨン』が生まれた1982年年は全斗煥政権期であり、ジヨンが小学校に上がる前に民主化を迎えた。ジヨンの記憶のどこかに民主化闘争中のソウルの風景も焼き付いていることだろう。

韓国社会が大きく変化するなかで小学校生活を送り、現在では徐々に減りつつあるが男女別学の中学校に通い、女子高からソウル市内の大学、いわゆる「インソウル」に進学したジヨンは就職がなかなか決まらない。

韓国は1997年にIMF危機に陥り、大手財閥系企業が破産、公務員でさえも解雇されるなど、経済的困難に直面することになった。作中でも、公務員だったジヨンの父親はIMF危機の影響により解雇されている。

超学歴主義に加え経済危機を迎えた韓国では、最難関のソウル大学校を卒業していても就職率が50パーセント程度の状況であった。ジヨンも卒業式直前にようやく就職が決まるのである。ジヨンが大学生から社会人になる頃はちょうど金大中・盧武鉉政権期にあたる。

南北融和ムードのなか、民主化運動の象徴でもあった金大中、学閥とは無縁の経歴を持つ盧武鉉というリーダーのもと、学歴や就職の問題を抱えていた若者も、さまざまな希望を持てた時代だったのではないだろうか。ジヨンもその中の一人であったに違いない。

ジヨンは稼ぎがよく家事や育児にも協力的、法事や帰省時に妻への気遣いもできる夫と結婚し一児の母となる。

一見幸せそうに見える生活ではあるが、結婚・妊娠・出産という人生のステージを経るなかで「失っていく」ものも多かった。ワンオペ育児と義実家への帰省のストレスをきっかけとしてジヨンに異変が起こるところから、物語は始まる。

教育費の高騰、超学歴社会、少子化の問題を抱える韓国は、共稼ぎ夫婦も増えている。とはいえ、ジヨンのように結婚・出産を機に専業主婦となる女性もいるのが現実だ。

女性たちが感じる社会の矛盾、違和感を言語化した小説『キム・ジヨン』の結末は、フィクションでありながらも韓国社会をリアルに描き出したといえよう。映画版と比べてどちらの結末がこの物語によりふさわしいのか、その判断は読者の皆さま各自にゆだねたい。

■【関連動画】映画『82年生まれ、キム・ジヨン』本編映像 を見る

 

さて、この『キム・ジヨン』は先述のように日韓そして世界で異例のヒット作となった。

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