米大統領選挙の「選挙人制度」は世界の笑い者── どうして始まりなぜ変えられないのか?
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月6日 16時36分
ダン・ペリー
<建国当時、人口の多い州と少ない州の不公平をなくすために作られた選挙人制度が、今では多くの国民の票を無効化し、意思をゆがめる有害なシステムになっている>
アメリカの大統領選挙における選挙人制度は、世界で他に類を見ない有害なシステムだ。有権者の意思を大きく歪め、おかしな結果をもたらし、国民の政治参加を抑制する。
アメリカは合理的な選挙を行うことができないようだと、物笑いの種にもなっている。私は外国特派員としておそらく100カ国の取材に携わってきたが、民主主義国家の中で、これほど異様なシステムを持つ国はないと断言できる。
そのため、ドナルド・トランプ前大統領はカマラ・ハリス副大統領より少ない得票数で5日の選挙に勝利する可能性さえある。しかもこのような事態は2000年と2016年に次いで3度目だ。
それは、子供でも知っているように、普通の人々が投票する「一般投票」にはアメリカでは何の意味もないせいだ。アメリカ以外の民主主義国すべてにおいて、一般投票は選挙のすべてに近い意味を持つというのに。
アメリカでは、一般人からの得票数より、各州に割り当てられた選挙人の数で優ったほうが勝つ「選挙人制度」を採用している。それも「勝者総取り方式」といって、各州の勝者がすべての選挙人を獲得する。
このため不満が広がっており、世論調査では約60%が大統領選挙を全国的な投票で決めることに賛成している。だが、ほとんどの国民は、そのような変革は不可能だとも考えている──まさに、とんでもなく非民主的な苦境に陥っているのだ。
選挙人の制度は、1787年の憲法制定会議で制定された。当時はイギリスからの独立を宣言した最初の植民地である13州だけが、連合を形成していた。
選挙人制度は当時、人口の多い州と少ない州の間で、影響力のバランスをとることを主な目標として始まった。それは、各州が独自に選挙を行うなら、得票数だけで勝者を決めるのではなく比較的人口の少ない州に配慮する必要があると考えられたからだ。
だが今、選挙人数が多いため「恩恵」を受けているペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、ジョージアなどのいわゆる激戦州は、一般的な意味で小さな州ではない。人口の少ない小さな州は、制度設計の趣旨に反して、無視しても何の問題もないし、実際に無視されている。
不合理なことに、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴの3大都市の有権者もまた、無視してもかまわない存在になっている。候補者は、これらの都市中心部で選挙運動をするインセンティブがない。
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