「私たちは怪獣じゃない」...総合格闘家のトランス女性が訴える「チャンス・公正・正義」の必要性
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月12日 17時20分
アラナ・マクラフリン(総合格闘家)
<「おとなしくしていろ。目立つな。性転換なんかするな」──周囲の期待とのギャップ、トランスジェンダーへの偏見の中でアラナ・マクラフリンは闘い続けてきた>
私は相手より「大きな人間」になれと言われるのが嫌いだ。これまでずっと私より「大きな人間」ばかりだったから。私は子供の頃から同じ年頃の子供たちより痩せっぽちでチビで──少し違ってもいた。
【動画】トランスジェンダー・フラッグを背負いリングで戦うマクラフリン
10歳の頃は3歳年下の妹と服のサイズが同じだった。いじめられて両親や学校の先生たちに泣き付いても「もういじめられないようになれ」と突き放された。
物心ついたときから、周囲が何を期待しているかは分かっていた。男の子なんだから優しさや美しさは必要ない、おまえは軟弱すぎる。女の子と遊ぶんじゃない。男の子がお絵描きなんて。ダンスやお芝居や芸術に興味を持つなんて。男の子らしく外で元気に遊びなさい......。
でも私は違った。内気でおとなしくトラウマ(心的外傷)に悩んでいた。自分の心の傷について十分理解したり対処したりできるようになったのは、大人になってだいぶたってからだ。その多くは私が育った環境に原因があった。
私が子供の頃に通っていた教会は外の世界から隔絶されていた。映画やポップスは世俗的で罪深いとされた。それでも(世界で初めて性転換手術を受けた)クリスティーン・ジョーゲンスンが1989年に死去したときはテレビの追悼番組を見た。
そのとき初めて、自分のように性転換を望む人間をトランスセクシュアルと言うことを知った。
マクラフリン(写真の左)。ドキュメンタリー『Unfightable』より FUSE MEDIA
同じ頃、私はやっと男らしいものに夢中になった。格闘技だ。ブルース・リーの筋肉質の体から生まれる力強く、それでいて優美な動きに憧れた。彼の体つきで美しさと力強さが両立するなら、自分だっていけるかもと思った。
我慢に我慢を重ねた日々
それでも両親の期待には応えられなかった。私はある日ついに、両親に言われていたとおり「いじめられないように」勇気を奮い起して、私をいじめ続けた2人に反撃した。1人の足にかみつき、もう1人の頭のてっぺんをこぶし大の石で殴りつけた。でも褒めてはもらえなかった。
その前日に2人に飛びかかられて胸を打撲し、目の周りにアザができたことは問題じゃなかった。当日の朝、両親から、もうこれ以上心配させるな、やり返せ、と言われたことも問題じゃなかった。
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