脱炭素化が「新たな地政学」生む...COP29で「温室効果ガス排出81%削減」表明した英スターマー首相の皮算用
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月13日 16時54分
木村正人
<国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)で野心的な排出削減計画を発表したイギリス。脱炭素化で新しい産業と雇用を生み出せるか>
[バクー発]アゼルバイジャンの首都バクーで始まった国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)のリーダーズサミットで12日、キア・スターマー英首相が「気候対策こそが経済成長への道」と2035年までに温室効果ガス排出量を1990年比で81%削減すると表明した。
第二次大戦以来の英米「特別関係」を誇る米国ではドナルド・トランプ前米大統領が復活、石油・ガス・石炭を増産する体制を整える。脱炭素化で新しい産業と雇用を生み出せるのか、それともコストを押し上げるだけなのか、世界は岐路に立たされている。
スターマー首相は「気候に関する行動を起こすことがエネルギーの安全保障、より良い雇用、長期的には国家の安全保障につながる」と強調した。スターマー政権は公営クリーンエネルギー企業「グレート・ブリティッシュ・エナジー」を設立し、クリーンな電力を起こす。
ロンドン証券取引所を通じ最大750億ドルを動員
未来のグリーン産業と雇用に投資するため国富ファンドも創設した。「化石燃料からの脱却」というCOP28での合意に沿って、9月末には英国最後の石炭火力発電所を閉鎖し、主要7カ国(G7)で初めて石炭火力発電を廃止した。新たな北海油田・ガス田の開発は許可しない。
116億ポンドの気候資金を途上国に提供するとともに気候投資基金(CIF)資本市場メカニズムも立ち上げた。途上国の気候変動関連プロジェクトに民間資金を動員するための金融イニシアチブだ。ロンドン証券取引所を通じ最大750億ドルを動員する可能性があると期待する。
欧州連合(EU)からの離脱で地盤沈下が著しい世界的な金融センター、ロンドンの地位を取り戻す狙いもある。スターマー政権は脱炭素経済への移行は約7兆ドルの投資機会をもたらし、グリーン経済は年率7~11%で成長すると見込む。
収入は増えないのにコストだけは膨れ上がる
世界的なネットゼロ(実質排出ゼロ)への移行を可能にする商品やサービスの供給は30年までに英国企業に1兆ポンドの価値をもたらす。英国ではすでに約64万人がグリーン産業で働いており、20~22年にかけ20%も増加しており、英国全体の雇用の4倍のペースで成長している。
脱炭素経済への「バラ色の移行」が実現するのかは分からない。クリーンエネルギーや電気自動車(EV)を購入する負担が有権者の生活にのしかかれば、スターマー首相は4~5年後の総選挙で米民主党のジョー・バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領の二の舞いを演じるだろう。
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