トランプは簡単には関税を引き上げられない...世界恐慌を悪化させた「禁じ手」を含む「4つの秘策」とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月26日 17時56分
一方でトランプの周辺、そして往々にして諸外国も、関税は貿易交渉で圧力をかける手段にすぎないとみている。
実際、第1次政権でもそういう例があった。日本に対してはこの圧力が効いた。しかし中国には効かなかった。もしも威嚇にすぎないなら、減税による歳入減の補塡や国内製造業の活性化は望めない。
「最大の問題は、トランプが貿易交渉で優位に立ちたい、自分流の取引をまとめ、関税で稼ぎたいと考えていることだ」と言うのは、かつてWTO(世界貿易機関)の事務局次長を務めていたアラン・ウルフ。「そんなことが実現する保証はどこにもない」
2つの秘策は利用済み
では、どうすれば高率関税を課せるのか。憲法の規定によれば、貿易や関税など対外通商に関する権限は原則として議会にある。それでもトランプは独断で世界中の国に関税を課せるのか。結論的には、まあイエスだ。
1930年の関税法以来、議会は行政府に広範な通商権限を移譲してきた。ただし、その一部は憲法の規定に抵触する恐れが指摘されている。新たな高率関税となれば司法の介入を招きそうだ。
しかしトランプには4つの強力な手段がある。そのうち2つは既に利用した。どちらも昔々の通商関連法にある時代遅れの条項だが、現在の国際貿易秩序に真っ向から挑戦する手段となり得る。
一番簡単なのは、第1次トランプ政権で中国からの輸入品に課すために利用したもの。1974年包括通商法の301条によれば、不公正または差別的な慣行がある国に対しては大統領権限のみで関税を課すことが可能だ。
第1次トランプ政権は不当な補助金や為替操作、知的財産の盗用などを理由に中国産品に関税をかけた。バイデン政権も301条を根拠に、中国製の電気自動車や太陽光パネルなどに対する関税をさらに引き上げた。
こうした前例と権限を根拠にすれば、全ての中国産品に高率関税をかけるのも容易だ。ウルフに言わせれば「301条の行使は簡単」で、「トランプはいつでも中国への60%関税を発動できる」。
トランプが以前に利用したもう1つの手段は1962年通商拡大法の232条。国家安全保障のために関税を利用する権限を大統領に与えた条項で、トランプはこれを根拠に鉄鋼とアルミニウムの輸入関税を引き上げた。しかし今回はあまり役に立たないかもしれない。
なにしろ232条を使うには、当該産品が安全保障に決定的に重要だという商務省による認定が必要だ。鉄鋼については認定されるだろうが、ペンシルベニア州の鉄鋼労働者の票が欲しいという理由だけでは苦しい。
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