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トランプは簡単には関税を引き上げられない...世界恐慌を悪化させた「禁じ手」を含む「4つの秘策」とは?

ニューズウィーク日本版 / 2024年11月26日 17時56分

国家安全保障を持ち出して関税を正当化することにはWTOも抵抗するだろう。もちろんアメリカ政府はWTOの意向など気にしない。だが諸外国は過去に、安全保障を口実とする貿易制限は不当だとして何度もWTOに提訴している。

アメリカの歴代政権がWTOの審理・仲裁能力を骨抜きにしていなければ、こうした訴えは認められていた可能性が高い。

幸か不幸か、トランプには1期目で手を付けなかった権限がまだ2つある。

1つは、1977年に施行された国際緊急経済権限法(IEEPA)に由来するもので、制裁を科したり、サイバー犯罪と戦ったり、外国の選挙干渉を罰したり、場合によっては関税を課したりする広範かつほぼ無制限の巨大な権限を大統領に与えている。

この法律で関税を課すために必要なのは、大統領が国家の緊急事態を宣言することだけだ。ちなみに1期目のトランプは10回近く、緊急事態を宣言している。

「彼が少しでも早くやりたいなら」、IEEPAは1つの選択肢になり得るとウルフは言う。「国家の緊急事態を口実にトランプがあらゆる産品に関税をかけた場合、最高裁はそれを支持するか。今の最高裁なら、それもあり得る」

議会の権限は復活するか

奥の手は、かつて議会が有権者をなだめる手段として成立させた悪名高い1930年関税法だ。

その第338条は、アメリカやその産品を不公正に扱う国の製品に対して一方的に最高50%の関税をかける権限を大統領に与えている。事態の改善が見られなければ当該国からの輸入を全面的に禁止することも可能だ。

だが、この法律を根拠とした急激な関税引き上げが世界恐慌をさらに悪化させ、1930年代半ばまでに世界貿易が崩壊し、世界大戦につながった事実を忘れてはならない。この法律をトランプが持ち出せば、景気の後退が一段と深刻化する恐れがある。

その場合、議会はどう出るだろうか。共和党のジョン・スーン議員が上院の院内総務に選出されたことで、共和党内にまだ自由貿易派が生きていて、トランプを牽制できるのではないかという期待が高まっているのは事実だ。

スーンは関税がインフレを招くと警告しており、地元サウスダコタ州のような農業州の輸出を(減らすのではなく)増やすことにつながる自由貿易を望んでいる。共和党上院議員には、ほかにも貿易に関する議会の権限を取り戻したいと考える人がいる。

米議会は最近、両院協議会で貿易に関する議会の権限を再び強化する策をいくつか講じている。

トム・コットン上院議員とジョン・ムーレナー下院議員(いずれも共和党)は中国の最恵国待遇を取り消し、より厳しい関税を中国からの輸入に課す法案を提出している。ただし関税率の調整権限は大統領に委ねている。

上院が本気でトランプを抑えようと思えば、トランプの関税に関する権限の規模と範囲を制限することは可能だ。

しかしそのためには、保護主義に傾斜しがちな下院を説得しなければならず、人気の高い新大統領との対決も覚悟しなければならない。既存の法律で特例として認められている大統領権限に、一定の制限をかける新たな法案を制定する手もある。

いずれにせよ、2017年減税の延長と、それによる歳入減を補塡するための高率関税の導入はトランプ次期政権にとって最優先の課題だ。もたもたしていたら、議会は出番を失う。

From Foreign Policy Magazine

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