2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月5日 16時52分
22年7月、避難先のベルリンでのアンナ TAKASHI OZAKI
妻アンナの思いがけない反応
キリルはその場で看護師から携帯電話を借り、妻のアンナにかけた。2年前、ベルリンに避難するつもりだと伝えられたのを最後に、家族についての情報は一切届かなかった。最愛の妻はどんな言葉をかけてくれるだろうかと、胸を高鳴らせていたキリルの表情はすぐに曇った。
「彼女の声から、僕たちの関係にとても大きな問題があることが分かった。彼女は、私たちは書類上の夫婦であり、私たちを結び付けているのは子供だけだと言う。彼女は僕からとても距離を置いていた。僕と別れたいと思っているようだった」
捕虜になってから852日、想い続けた妻との電話は数分で終わった。
夫の帰還を目指し東奔西走してきたアンナに何があったのか。キリルが解放される前の月、アンナは筆者にこんなメールを送ってきた。「母が癌を患ったようだ。私は母と息子のケアに専念している。キリルは捕虜のままで生きているかも分からない。私はもう諦めざるを得ない」
ベルリンのアパートでスビャトスラフを遊ばせていたラリーサの姿が思い浮かんだ。そして、2年半におよぶ戦禍とさまざまな重圧が、戦争捕虜の家族にかくもつらい選択を強いるものかと痛感した。この決断を下した後、アンナに届いたのがキリル本人からの電話だった。
帰還した兵士は治療やリハビリのため軍の病院に直行した。キリルは複雑骨折をした膝と、壊死しかけた足の指の治療が必要だった。診察の合間、キリルは病室でアンナに電話をかけてみた。しかし、つながらない。
しばらくして、キリルはベッドに座り語り始めた。「彼女は僕を取り戻すため世界中を回ってくれていた。本当に素晴らしい人で、誇りに思っている。でも、その妻がそばにいない。実の母や愛犬には会えたのに......。落ち込むよ」
キリルは、アンナが西ヨーロッパへの移住を決めたと確信している。一方、戒厳令による成年男子の移動制限は帰国した元捕虜にも適用される。これでは2人の関係を立て直しようもない。
キリルはスマートフォンに映る戦友との集合写真を指差し、つぶやいた。「彼は死んだ。彼もだ......。妻との関係がうまくいかなかったら、また戦列に復帰する。仲間たちの復讐をするために」
10月16日、アンナのSNSのアカウント名が旧姓に変わっていた。その日、キリルは全面灰色の画像をSNSにアップした。10月28日、スビャトスラフは3歳になった。
アゾフ兵士の捕虜約900人は、今もロシアのどこかで拘束されている。現地では厳しい冬を前に開戦1000日を迎えた。
この記事に関連するニュース
-
ウクライナとロシアが大規模な捕虜交換
日テレNEWS NNN / 2024年12月31日 13時58分
-
「1人の生還も望まない」ロシア派兵軍人に金正恩の残忍な仕打ち
デイリーNKジャパン / 2024年12月30日 5時2分
-
「負傷した北朝鮮兵が捕虜に」ウクライナ情報を韓国当局が確認
デイリーNKジャパン / 2024年12月27日 13時4分
-
「彼らは横柄」「飛ぶものは何でも撃つ」ロシア兵、北朝鮮兵に不満 ウクライナメディア
産経ニュース / 2024年12月25日 15時34分
-
ウクライナ侵攻によるロシア兵の死者は11万5000〜16万人に、兵士を「使い捨てる」ロシア軍の残酷物語
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月16日 13時29分
ランキング
-
1なぜ?「角が丸い」案内標識が最近増えているワケ 丸くする“メリット”とは?
乗りものニュース / 2025年1月5日 16時12分
-
2イトーヨーカドー茅ケ崎店が閉店 営業45年、数百人が集まり「ありがとう」
カナロコ by 神奈川新聞 / 2025年1月5日 23時0分
-
3日鉄、米政府提訴へ準備 USスチール買収禁止に批判噴出
共同通信 / 2025年1月5日 19時24分
-
4日本の労働生産性ランク、20年ぶり上昇し29位…先進7か国では最下位
読売新聞 / 2025年1月5日 18時40分
-
5銀行が恐れる日銀「預金準備率引き上げ」の現実味 銀行の「棚ぼた利益」に対する国民の不満も
東洋経済オンライン / 2025年1月5日 7時40分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください