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韓国12.3戒厳令が教える直接選挙による大統領制の負の側面

ニューズウィーク日本版 / 2024年12月11日 20時0分

一方、韓国の大統領は国民の直接選挙で選ばれる。5年間の任期中、強大な権限を有し、途中解任も基本的にない。1988年の民主化以降、任期を全うしていない大統領は朴槿恵が唯一だ。
直接選挙で選ばれる大統領は経験や実績に関わらず人気投票となりがちだ。盧武鉉は国会議員を6年間勤めた後、海洋水産部長官を経て大統領に就任した。閣僚経験は7カ月のみだ。李明博は国会議員6年とソウル市長1期4年で閣僚経験はない。朴槿恵も国会議員を14年勤めたが閣僚経験はなく、文在寅は国会議員1期のみで閣僚経験は皆無である。尹錫悦にいたっては大統領選出馬まで24年間検察一筋で、閣僚どころか政治経験すらない。

文在寅前大統領は朴槿恵大統領の退陣を求めるろうそく集会で人気を集めて大統領となり、尹錫悦も朴槿恵の不正を追求する特別検察のリーダーとして文在寅の信頼を得たものの、側近だった曺国(チョ・グク)の疑惑を追求。政権に迎合しない姿勢から人気を得て大統領に就任した。

すべてを委ね、すべてを奪う国民

政治経験をもたない大統領は経験者を国務総理(首相)に据えるが、国民は首相には目をくれず、政治初心者の大統領にすべてを委ねて問題が起きると大統領の責任を追求する。

朴槿恵は直接的には崔順実の国政介入で罷免となったが、弾劾されたもう一つの理由としてはセウォル号沈没事故があった。朴槿恵政権が発足した翌14年4月16日、修学旅行生325人など乗員乗客476人が乗船していた大型旅客船「セウォル号」が沈没して300人を超える死者・行方不明者が出た。

事故原因は不適切な改造や過積載とされるが、国民は朴槿恵政権に不信の目を向けた。朴槿恵が事件発生後に対策本部に現れるまでいわゆる「空白の7時間」があったことや、海洋警察の初動措置が不適切だったなど、朴槿恵大統領の責任だという声である。セウォル号沈没事故以降、景気の悪化が続いて国民の不信が積もったところに崔順実事件が明るみになり、弾劾へ進んだのだ。

次期大統領にふさわしいのは?

戒厳令から1週間経つが、既に尹錫悦大統領は、一部の人事の承認を除いて職務停止状態となっているが、与党関係者によると「どのような場合でも退陣は考えていない」という。最大野党・共に民主党は弾劾訴追案を14日にも再提出する構えをみせ、与党内にも若手議員を中心に「国政の停滞を回復するためには弾劾やむ無し」とする声が上がっている。とはいえ人気投票を勝ち抜ける大統領候補はいない。

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