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パセリを見たこともなかった僕が、チベットからNYに渡り由布院で総料理長になるまで 

ニューズウィーク日本版 / 2024年12月21日 14時45分

15年からは、ファーム・トゥー・テーブル(農場から食卓へ)のパイオニアで、ニューヨーク郊外にあるミシュラン2つ星レストラン「ブルーヒル・アット・ストーンバーンズ」で働くことになった。前年の誕生日にこの店を訪れて感銘を受け、面接を受けた。ダン・バーバーというスターシェフがいるブルーヒルは、自分たちで育てた野菜や家畜、森で採取したものを使い料理をする。育てたものを食べる、というのは僕が小さい頃からやっていたこととつながっていた。

ブルーヒルはコーネル大学統合植物科学部とコラボしていて、ダンは大学の先生に「味のための野菜」を作ってほしいと依頼していた。大量生産用の野菜ではなく、味を最優先して作る野菜のことだ。ブルーヒルでは野菜はメイン料理のサポート役ではなく、それ自体が主役だったから。

小イカと3種のジャガイモの一皿 SATOKO KOGUREーNEWSWEEK JAPAN

ここで僕は、いま大分で実践していることの多くを学んだ。ジャガイモだけで10種類以上作って味を比べたり、味の合わせ方を考えたり。副料理長を2年間務めながら、18年には休みをもらってイギリスと日本に研修旅行にも出かけた。日本には3カ月いて、(千葉県の日本酒醸造・販売の)寺田本家で発酵を学び、和食やフレンチなどの店で働いた。この時の人や文化との出会いがとても良くて、日本に住んでみたい、働いてみたいという思いが強くなった。

野菜が主役のレストラン

昨年6月にオープンした大分県由布院のオーベルジュ(宿泊施設を備えたレストラン)「エノワ」で総料理長を務めることになったのは、ブルーヒルで食事をしたオーナーが日本にも同じようなコンセプトで、しかもオーベルジュを開業したいと言って、共通の友人タエコさんを通して声をかけてくれたから。僕もオーナーの思いに共鳴し、ブルーヒルを辞めて20年のコロナ禍直前に日本に移住した。そして由布院で自家農園を土から作り始めた。

僕らの畑では多品目・少量栽培で野菜やハーブを育てていて、その数は200種類以上。毎日畑に行って一番いい時に収穫し、取れた野菜を見てその日のメニューを考える。堆肥には牛糞(ふん)やもみがらのほか調理場で出る食品廃棄物、例えば地物のヒオウギ貝の殻を使い、ごみを出さない循環型農業を実践している。無農薬の有機栽培なので虫との戦いではあるけれど、お客さんには安全で栄養価が高く、何よりおいしい野菜を食べてほしい。

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