「発熱患者お断り」は、なぜ4年も続いたのか?...「初動」の悪さが「有事」を長引かせてしまった
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月8日 11時5分
応召義務はあっても、他の医療機関を紹介すればよい、つまり診なくてもよい、という現状追認の通知となった。
医療機関の能力にはもちろん差がある。すべての医療機関で必ず診よ、というのは現実的には不可能であり、非効率でもある。では、紹介すべき「診察可能な医療機関」とはどこか、その情報が行政にも医療者にもわからない、という状態が半年余り続いた。
そのような中、2020年9月に厚生労働省が通知した仕組みが「インフルエンザ流行期における発熱外来診療体制確保支援補助金」(以降、発熱外来)である。
これは、発熱患者専用の診察室や診療時間を設ける「診療・検査医療機関」を都道府県が指定し、その体制確保を補助する仕組みである。季節性インフルエンザをも想定し、秋冬期は補助金がさらに拡充された。この補助金の仕組みは後述するが、この政策には別の意外な落とし穴があった。
開設すれども公表せず──発熱外来の教訓
2020年9月の厚生労働省通知には「診療・検査医療機関から公表可能と報告のあった医療機関について、地域の医師会等とも協議・合意の上、公表する場合は(中略)患者が円滑に医療機関を受診できるよう」にする、とある。
市民に情報を公開し、選択肢を提供してこその発熱外来であったが、公表するかは医療機関の判断、としている。しかも行政上の組織ではない医師会等との協議を要したうえで「公表しても構わない」つまり非公表でもよいという不可解な通知だったのだ。
2022年2月4日の日本経済新聞によると、2022年当時3万5000の「発熱外来」のうち、3割の医療機関名が非公表であったという。その後、公表による加算金を付ける等の対応が行われた。
2022年11月に厚生労働省から示された資料では、全国4万1000の発熱外来の9割が公表されるようになったが、この時すでに新型コロナ発生から2年半以上が過ぎていた。
患者を受け入れることが前提で多額の補助金を得ている「発熱外来」を非公表にしたい、というのは身勝手が過ぎる。
医療機関側は「公表すると患者が殺到する」「事前予約なしで来院するので対応に追われる」等とコメントするが(前掲の日本経済新聞より)、その分、公表した医療機関にしわ寄せがくることは容易に想像できる。
なお、一部の医療機関や医師会等がなぜ公表に後ろ向きだったのかは、この補助金の仕組みにも問題がある。
発熱外来診療体制確保支援補助金は、一言でいえば、発熱外来を開設して診療時間を確保したが、患者が来院しなかった場合の補償金である。患者が来院しなければ、補助金が満額となり、診察した患者数に比例して減額される。
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