地下鉄で火をつけられた女性を「誰も助けず携帯で撮影した」事件がえぐり出すNYの恥部
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月26日 15時27分
キャサリン・ファン
<制服の警察官さえが全身を炎に包まれた女性の横を通りすぎる異常な無関心は、ニューヨーカーのトラウマになっている約60年前の事件の記憶を甦らせた>
ニューヨーカーには、半世紀以上経った今もトラウマになっている事件がある。1964年にクイーンズで28歳のバーテンダー、キティ・ジェノビーズが自宅アパートの外でレイプされた上に刃物で刺されて死亡した事件だ。
【閲覧注意】【画像】警官はただ通り過ぎた?
最悪だったのは、犯人は30分以上にわたってジェノビーズを暴行し続け、30人以上の人がそれを目撃したり悲鳴を聞いたりしていたのに、一人の隣人を除いて誰ひとりとして警察に通報せず、助けにも行かなかったことだ。
後に複数の当局者がこうした報道に異論を唱え、実際には目撃者の多くが警察に通報しようとしたと述べたが、自分以外にも事件の傍観者が多数いる場合、誰も行動を起こさなくなるという「傍観者効果」は、忌むべき記憶として定着した。
この悪夢が現代のニューヨークに甦った。12月22日、停車中の地下鉄車内で男が女性客に火をつける事件が起きた。男は生きたまま焼かれる女性の様子を冷然と眺めていたという。
インターネット上に投稿された事件の動画には、この男だけでなく、現場に居合わせた複数の乗客、そして少なくとも1人の警察官が、誰ひとりとして女性を助けようとせず、何事もなかったように歩いていったり、辺りをうろうろと歩き回る様子が映っていた。
ジャーナリストでジョン・F・ケネディ元米大統領暗殺事件に関する書籍を執筆したことで知られるジョン・ポスナーは、ソーシャルメディア上に投稿されたこの「きわめて不快な動画」について、「現代版キティ・ジェノビーズ事件」だと称した。
ニューヨーク市警察のジェシカ・ティッシュ本部長は、男は落ち着いた様子で眠っていた女性に歩み寄ると、ライターを使って彼女の服に火をつけたと説明。女性は「ものの数秒で炎に包まれた」と述べた。
ソーシャルメディア上では、事件発生当時の様子を撮影した複数の動画があっという間に拡散された。全身を炎に包まれた女性が地下鉄の扉のところに立ちつくし、周囲にいる人々がそれを眺め、一部の人が携帯電話で女性の様子を撮影している。
火を付けた男が衣服を手に女性に近づき、それで火を消そうとするどころか、さらに炎をあおる様子も見て取れる。警察がまだ身元を明らかにしていない被害者の女性は亡くなった。
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