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なぜイエスもモーツァルトも「ロックを歌う」のか?...大ヒット作品からロックの持つ「意味」に迫る

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月14日 16時36分

'Gethsemane' Ben Forster | Jesus Christ Superstar - The Shows Must Go On!

そんな時代の音楽をわたしたちは知るよしもないが、作曲家のアンドリュー・ロイド・ウェバーはおよそイエスと結びつきそうもないロックを選んだ。

イエスが弟子たちを連れて歩きながら教えを説き、修業をしていくスタイルが、ヒッピー文化と重なるところがあったからだろう。また、1960年代から70年代にかけて、ジーザス・ムーヴメントなる運動が起きていた。

(中略)

ある時代には存在しえなかった音楽で、ある時代の物語を語る作品、というのは、そこにギャップがあるほど新鮮味をおびてくる。古典的な物語を、クラシックの「音」で語ることはギャップが少ない。クラシックがそもそも古典だからだ。

それに対して、ロックやヒップホップは非常に新しく映る。第2章でとりあげた《ザ・ウィズ》も、『オズの魔法使い』とさして変わらない古典的キャラクターで構成されていた。新しいのは音楽の側であった。R&Bによる音楽は、もはや古びてしまった物語を新鮮な「現代」の物語へと変える。

しかし、物語の時代設定とのギャップでいえば、《ジーザス・クライスト・スーパースター》の翌年、スティーブン・シュワルツが作詞・作曲し、ボブ・フォッシーが振付をした《ピピン(PIPPIN)》(1972)を忘れるわけにはいかない。

この作品ではまず、オープニングで俳優たち、とくに一人の語り手がわたしたち観客にむかって語りかける「ダイアローグ(ナレーション)」の機能をもったナンバー〈マジック・トゥ・ドゥ〉を歌う。舞台と客席がロックのサウンドを介して同じ時間を共有している。

"Magic To Do" | Watch the West End cast of Pippin perform - The Theatre Cafe

そこから俳優たちは中世のカロリング朝、カール大帝の架空の息子の物語を演じるために、舞台上で着替えていく。中世の物語は、あくまで舞台上の俳優たちが演じているのだ、ということをみせるメタフィクショナルな物語構成で、コンセプト・ミュージカルのひとつに数えられている。

わたしはうかつにも物語の時代設定に対する音楽のギャップの例に《ピピン》をあげてしまったが、このばあい、あくまでロックを歌う現代の若者たちが、中世の物語を演じる、というメタフィクションになる。

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