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なぜイエスもモーツァルトも「ロックを歌う」のか?...大ヒット作品からロックの持つ「意味」に迫る

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月14日 16時36分

だから、こう言いなおすのが適切なのかもしれない、音楽(とそれを演じる若者)に対する演じられる物語の時代設定のギャップが新鮮にうつる作品だと。

時代設定に対する音楽のギャップを考えるうえで、ミヒャエル・クンツェが作詞し、シルヴェスター・リーヴァイが作曲したドイツ語のミュージカル《エリザベート》(1992)と《モーツァルト!》(1999)、あるいはリュック・プラモンドンが脚本・作詞を手がけ、リッカルド・コチャンテが作曲したフランス語のミュージカル《ノートル・ダム・ド・パリ》(1998)、いずれも現在まで人気の高いレパートリーである。

ここでは、音楽ということで《モーツァルト!》について少し触れておきたい。作曲家の伝記をミュージカルにするというのはたいへんに難しい。それをロックで表現した、というところにこの作品に対する新鮮な驚きがあり、いまだに色あせることがない。

MOZART! Das Musical im RAIMUND THEATER - Trailer 2015 - musicalviennaVBW

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトはいうまでもなく18世紀の作曲家である。なぜロックでその人生を描くことに説得力が生まれたのだろうか。

劇中で、母を亡くす前後のナンバー〈残酷な人生〉を取り上げてみよう。このナンバーの主旋律の前には、2015年の再演で、前置きとなる導入部分が追加された。その導入では、モーツァルトの《ピアノ協奏曲第20番ニ短調》を中心とし、《ピアノ・ソナタ第3番変ロ長調》と《ピアノ・ソナタ第12番ヘ長調》が芝居の間にはさまれる。

悲劇的な切迫感をともなった《ピアノ協奏曲第20 番》第1楽章のシンコペーションにのせて、ヴォルフガングが「7 人しか客が来なかった」と嘆く。母アンナ・マリアも客席についている。今度は幼少期の姿をしたヴォルフガングが《ピアノ・ソナタ第3番》を弾いている。客は4人になっている。

ふたたび《ピアノ協奏曲第20番》にあわせて「4人」であることを嘆く。そして母に向かって自分の音楽はいずれ理解される、と強がってみせる。しかし、《ピアノ・ソナタ第12番》を弾くと、客はひとりもいなくなる。そして、母も死んでおり、ヴォルフガングは無理解と孤独に打ちのめされ、〈残酷な人生〉を歌いはじめる。

このナンバーの機能は「モノローグ」で、重いビートとベースの響きが印象的なロックだが、ひじょうに細かな変化をする。その細部にはふみこまないでおく。

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