「日本製鉄のUSスチール買収は脱炭素に逆行」買収阻止を喜ぶ環境専門家たちの声
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月6日 6時30分
ジェフ・ヤング(環境・サステナビリティー担当)
<バイデン米大統領が「安全保障」を理由に買収を禁じる命令を出し、USスチールと日本製鉄は猛反発、経済界は騒然となった。だが意外なところから「歓迎」の声が上がっている>
バイデン米大統領は1月3日、日本製鉄によるUSスチールの買収を禁止する命令を出した。その際、バイデンが挙げた理由は国家安全保障上のリスクだったが、この決定は気候変動と大気汚染に及ぼす影響も大きい。
世界の鉄鋼業界は温室効果ガスの主要な排出源の1つだ。
国際エネルギー機関(IEA)の推計によると、鉄鋼の生産は、世界の産業部門による温室効果ガス排出のうち約25%を占めている。加えてUSスチールの製鉄所の一部は、空気中に大量の有害物質を吐き出していることでも知られている。
鉄鋼業界では、よりクリーンなテクノロジーへの転換を進める動きも見られる。しかし、環境問題の専門家たちによると、日本製鉄に買収されていれば、USスチールは古い石炭燃焼炉をさらに長く使い続け、環境に優しいテクノロジーへの転換は遅れていたことだろうという。
「日本製鉄は、人々の健康を害し、気候に悪影響を及ぼし続けるつもりでいた」と、環境保護団体「インダストリアス・ラボ」の鉄鋼業部門責任者ヒラリー・ルイスは本誌の取材に電子メールでコメントしている。
インダストリアス・ラボによると、USスチールの高炉とコークス炉は毎年1400万トンの温室効果ガスを排出している。日本製鉄の買収提案には、石炭燃焼炉を使用し続けるための投資も盛り込まれていた。それが実現すれば、石炭の消費と大気汚染が続くと、ルイスは指摘する。
気候変動対策活動家の間には、日本製鉄による買収が中止になれば、別の企業がUSスチールを買収して、よりクリーンなテクノロジーへの転換が進むのではないかと期待する声もある。
「日本製鉄による買収提案は、気候にとって好ましくないものだった」と、鉄鋼業の脱炭素化を目指す団体スティールウォッチのアジア責任者を務めるロジャー・スミスは本誌の取材に電子メールで回答している。
再生可能エネルギーの利用拡大に伴い、発電における温室効果ガスの排出は減り始めている。そこで、次に注目が集まっているのが鉄鋼業などの重工業だ。
米商務省は昨年3月、鉄鋼大手クリーブランド・クリフスのオハイオ州ミドルタウンとペンシルベニア州バトラーの工場の脱炭素化に、最大5億7500万ドルの助成金拠出を決めている。
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