エイズ撲滅のため差別や憎悪と闘い続ける──エルトン・ジョン
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月9日 13時35分
エルトン・ジョン(ミュージシャン、エルトン・ジョン・エイズ基金創設者)
<HIVの猛威を止める鍵は医療の進歩だけではない。包摂と共感と思いやりも問題解決に不可欠だ>
2024年にはエイズとの闘いで研究開発分野において目を見張るようなブレイクスルーがいくつもあった。長期作用型の予防薬が開発されるなど、エイズ撲滅に現実的な希望が持てるようにもなった。
こうした科学技術の進展が人間性の最善の部分を照らす一方で、今は人間性の最悪の部分が目につく時代──尊厳を奪われて苦しむ人たちが大勢いる時代、差別と分断がまかり通る時代でもある。
世界には今、治療を受けていないHIV感染者がおよそ930万人いる。性的マイノリティーや薬物の使用者、女性と少女たちなど、社会の周縁に追いやられた人々は医療や支援にアクセスしにくい。「支援に値しない存在」と見なされているからだ。
衝撃的な数字もある。世界中の新たなHIV感染者の実に44%を、女性と少女が占めているのだ。ゲイの男性もしくは同性と性行為を持つ男性はそうでない人たちと比べて、HIVに感染する確率が23倍も高いことも分かっている。
不平等は私たちの未来を脅かす。社会的な烙印や差別、恐怖や無視が、何百万人もの感染者を医療サービスから締め出し、公衆衛生上の脅威としてのエイズ禍を終わらせる試みを妨害している。
こうした現状に私は個人的にも、またエルトン・ジョン・エイズ基金の創設者としても胸がつぶれる思いだ。
南アフリカのスポーツNPOを訪ねて子供たちと交流 GRASSROOT SOCCER
1992年にこの基金を設立したときには、画期的な治療薬も公的支援もなかった。あり余るほどあったのは、ゲイへの憎悪とエイズを恥ずべき病気と見なす風潮だ。
当時と比べれば、エイズとの闘いは飛躍的に進展した。有効な検査や治療・予防薬が開発され、それらの使用も劇的に拡大した。「米大統領エイズ救済緊急計画」や「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」といった支援の枠組みが資金を提供したおかげだ。
しかし社会的な烙印──HIV感染者は支援に値しないという見方は今もはびこり、私たちを苦しめている。
私は恥の感情も、それがどんな影響を及ぼすかも、身をもって知っている。ゲイであることが罪と見なされる時代に育ったからだ。私は自分の性的指向を隠そうとはしなかった。だがシンガーソングライターとして成功したにもかかわらず、薬物依存に陥ったのは、自分は愛される資格がないと思い込んでいたからだ。ゲイとか依存症患者といったレッテルではなく、私という人間そのものを見てくれる人たちが周囲にいなかったら、とうに命を絶っていただろう。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
HIVの新規感染報告件数…25府県が昨年1年間の累積を上回る
日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月8日 9時26分
-
「ダメ。ゼッタイ。」でもなく、厳しすぎる社会的制裁でもなく…“薬物乱用問題”を解決するたった一つの方法
文春オンライン / 2025年1月7日 6時0分
-
マドンナ、友人の死を機にHIV活動家に 過去にエイズ在団に6300万円の寄付も
よろず~ニュース / 2024年12月30日 13時30分
-
エルトン・ジョン、大麻合法化の危険性を語る
映画.com / 2024年12月17日 11時0分
-
エルトン・ジョン「マリファナ合法化は史上最大の過ち」危険性訴える
クランクイン! / 2024年12月13日 16時0分
ランキング
-
1【全文】中居正広、騒動を謝罪・示談成立認める 暴力行為と第三者の関与は否定「すべて私の⾄らなさによるもの」
モデルプレス / 2025年1月9日 19時17分
-
2俳優の伊藤孝雄さん死去 87歳、多臓器不全 劇団民藝で50年以上活躍 NHK大河にも出演
スポニチアネックス / 2025年1月9日 15時39分
-
3堀江貴文氏 撮影したソフトバンクCMお蔵入りの過去「フジテレビだけが編成判断で放送NG」
東スポWEB / 2025年1月9日 16時34分
-
4壇蜜、意外過ぎる「本名」が話題 夫・清野とおる氏の漫画で発覚…「かっこよすぎ」「すごく壇蜜っぽい」
スポニチアネックス / 2025年1月9日 16時48分
-
5元ジャンポケ斉藤慎二、ロケバス性加害の事態を大きくする「罪状」と切実な“台所事情”
週刊女性PRIME / 2025年1月9日 11時0分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください