「小惑星の資源採掘へ」月面探査で終わらない、中国が宇宙開発でアメリカを追い越す日
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月9日 17時3分
続く嫦娥8号(現在のところ28年以降の打ち上げが予定されている)では水氷その他の資源の採掘を目指す。成功すれば、そこに人類が暮らせる可能性が見えてくる。嫦娥7号も8号も現在のILRS計画に含まれており、宇宙大国を目指す中国の実力の見せどころだ。
対するアメリカは、20年に設立した国際的枠組み「アルテミス合意」への参加国を増やしたい。月世界の資源の使用に関するルールを定めたアルテミス合意には現時点で50カ国が署名しているが、30年までに再び人類を月に送ることを目指すアメリカの計画は、技術的な問題により何度も遅延が生じている。
宇宙外交は新たな段階に
宇宙探査のような大がかりなミッションで遅延が生じるのは珍しいことではない。宇宙飛行士を月の周回軌道に送り込むアルテミス2号の打ち上げは26年4月に延期されたし、アポロ計画以来の有人月面着陸を目指すアルテミス3号も27年以降に延期されている。
アルテミス計画には、今後も新たな遅延が生じる可能性がある。一方で中国は、30年までに人類を月面に着陸させるという約束を果たせるかもしれない。人類を再び月世界に送り届ける競争に勝つのは、アメリカではなく中国になるだろう──そう考える専門家がいるのも事実だ。
実際、中国の宇宙開発計画には一貫性があり、組織的にも統合されている。そしてアメリカなどが直面している深刻な技術的問題にも(少なくとも私たちの知る範囲では)悩まされていないようだ。
しかも中国には「天宮」という名の宇宙ステーションがあり、高度約400キロの軌道を周回している。似たような軌道にはアメリカ主導で建設された国際宇宙ステーション(ISS)が浮かんでいるが、30年までには運用を終える見込みだ。そうなると、少なくとも3人の太空人(宇宙飛行士)が常駐する「天宮」だけが頼りになる。
1950年代から60年代にかけては、当時の超大国(アメリカとソ連)が宇宙の先陣争いを繰り広げた。同じように、今後の宇宙開発にも地政学的な思惑が絡んでくるだろう。
アメリカのアルテミス3号も中国の嫦娥7号・8号も、月面のほぼ同じ地点(シャックルトン・クレーター周縁)への着陸を目指している可能性が高い。あのクレーターの縁以上に理想的な着陸地点はないからだ。
そうであれば、中国とアメリカは互いの計画を調整しなければならず、そのために米中対話の新たな次元に踏み込む必要がある。互いの国益を守りつつも、2つの超大国(と、双方の計画に加わる諸国)は月面探査に関して何らかの共通ルールを設け、それを守らざるを得ない。
中国が最初の人工衛星「東方紅」を打ち上げたのは1970年の4月24日だった。以来半世紀余り。かつてアメリカと覇を競ったソ連は滅び、いよいよ中国の出番だ。
Simonetta Di Pippo,Director of the Space Economy Evolution Lab, Bocconi University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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