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トランプの「領土奪取」は暴論にあらず。グリーンランドとパナマ運河はなぜ放置できないのか

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月15日 18時19分

そうはいっても、トランプが実際にグリーンランドとパナマ運河を獲得する可能性はどのくらいなのか。

「中国の脅威」が口実に?

人口5万6000人ほどのグリーンランドは民主的な自治政府があるとはいえ、その行政は年間5億100万ドル相当のデンマークの補助金が頼りだ。それでも独立の機運があるのは確かで(デンマークはそれを止めようとはしていない)、アメリカが何らかのインセンティブを与えれば、アメリカとの連合(あるいは併合)を問う住民投票が行われる可能性はないとはいえない。

パナマ運河については、カーター政権が当時のパナマ政府と結んだ新パナマ運河条約の第4条に、恒久的に中立の運航を保証することが定められている。トランプはこの条項に基づき、「中国の脅威に対して運河の中立を維持する必要がある」として、アメリカへの主権返還を要求するかもしれない。

アメリカはジョージ・H・W・ブッシュ大統領時代の1989年にパナマに侵攻し、麻薬密輸容疑で米当局に指名手配されていたパナマの指導者を逮捕した。たとえ今、トランプが同様のことしたとしても、日本や韓国、チリ、カナダなどの運河の主要利用国は、強く抗議するメリットをさほど見いださないだろう。

1期目のトランプはアメリカのことだけを考えて、外国のことには関与したがらない「孤立主義者」と非難されることが多かったが、最近は正反対の概念である「帝国主義者」と批判されることが増えている。これはある意味で正しい批判だが、トランプだけの話ではない。いつの時代も、アメリカの振る舞いには帝国主義的な要素があった。

トランプは2期目の外交政策として、3つの基本戦略を固めた可能性が高い。すなわち①アメリカを強化する。②ヨーロッパでは左寄りの政府を威嚇してアメリカに従わせる一方で、右派が政権の座に就くのを後押しし、ロシアを中国から引き離す。③孤立して劣勢に立たされた中国をたたく。それによって21世紀版パックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)を実現しようというのだ。

だが、トランプのアメリカに、それを実現する手段はあるのか。

長年にわたり世界は多極化しているといわれてきた。だが、実際にはアメリカ以外の勢力が「極」と呼べるほど強力になることはなかった。EUのGDPは中国と同レベルで、アメリカの3分の2程度だ。ロシアのGDPはブラジルよりも少ない世界11位。さらに、アメリカの労働者は世界でも指折りの生産性を誇り、中国の労働者の6.8倍にもなる。

こうしたことは全て、世界が再びアメリカ一極の時代を迎えつつあることを明確に示している。トランプが大胆にもグリーンランドやパナマ運河に食指を動かすのは、その表れかもしれない。そしてトランプには、その壮大な構想を実現するチャンスが巡ってきているのかもしれない。

もちろん、それが世界にとって良いことかどうかは、大いに議論の余地があるが。

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