街に住居に公園に...今日の防犯対策に生かされる「城壁都市のDNA」 理にかなっている理由とは?
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月16日 10時15分
写真5 筆者撮影
そこで、三方を山に囲まれた特殊な地形を利用して、唯一平地に面した一方に城壁を築いた(つまり、入りにくい場所にした)。城門も夜間は閉じられる。完成は2011年。建設費600万円の7割は住民の寄付で賄われ、残りを行政が支援したという。この地域でも、城壁都市のDNAが受け継がれているのだ。
城壁都市のDNAはヨーロッパでも確認できる。例えば、ウィーン(オーストリア)の低所得者向け市営住宅は、城壁都市のミニチュア版のような集合住宅だ(写真6)。
写真6 出典:拙著『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)
マンションの入り口にはゲートバーが設置され、手動で開閉しなければ出入りできず、各住戸にも中庭側からしかアクセスできない。つまり、居住空間は「入りにくい場所」になっている。
中庭に造られた公園(遊び場)は、周囲360度から視線が届くので「見えやすい場所」だ。
さらに、この公園を「入りにくい場所」にするため、①公園の通り抜けをしないよう歩行者を誘導する舗装道を左右に設け、②近づいてくる人に子供が気づける時間を確保するバッファーゾーン(緩衝地帯)として、遊具と歩道の間に芝生を植えている。
また、西洋諸国では公園にも城壁都市のDNAを見ることができる。例えば、バルセロナ(スペイン)の公園では、遊具のある遊び場がフェンスで囲まれていて、入りにくい場所になっている(写真7)。その姿はさながら城壁都市のミニチュアのようだ。
写真7 筆者撮影
ウェリントン(ニュージーランド)の公園もフェンスに囲まれ、ゾーニングされている(写真8)。子供が連れ去られるケースのほとんどは、子供がだまされて自分からついていくパターン。だが、ゾーニングされている公園では、子供専用のスペースに入るだけで、子供も周りの大人も警戒するので、だまして連れ出すことは難しい。
写真8 出典:拙著『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)
さらに、ここには遊具を背にしたベンチがフェンス外周に置かれている。こうすることによって、物色中の犯人にいち早く気づける。SP(要人警護官)の立ち位置や視線方向と同じスタンスのベンチだ。これも城壁に立つ見張りのイメージと重なる。子供を守りたければ、子供を見るのではなく、子供を見ている人を見なければならない、というわけだ。この遊び場は、物色も接触も困難な「入りにくく見えやすい場所」である。
このように、海外では犯罪機会論が自然に(無意識に)実現されてきた。しかし、日本ではそうはならない。日本人が意識して取り組まなければ、安全な場所は作れないのである。
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