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スパイを国民のヒーローに...プーチンの巧妙な「心理作戦」の真相

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月16日 9時41分

しかしスパイ交換でロシアに戻り、今は晴れて国会議員となっている。2006年にロンドンでロシアの元工作員アレクサンドル・リトビネンコを殺害した容疑で英警察に追われている実業家のアンドレイ・ルゴボイも、今は国会議員だ。

前出のラドチェンコによれば、外国で捕まってスパイ交換で祖国に戻ったスパイが華々しく脚光を浴びることなど、ソ連時代には考えられなかった。しかし「今のロシア国民の目には、元スパイという肩書が立派な資産と映るらしい」とラドチェンコは言う。

「任務を果たせなかったスパイも、国に戻ればプロパガンダの片棒を担がされ、運がよければ豪勢な暮らしもできる。そこがソ連時代とは決定的に違う」

ラドチェンコは「外国で正体を暴かれた工作員がロシアに戻って公的な役職に就いた例など、過去には聞いたことがない」とした上で、こうも言った。

「今はロシアでもイメージやプロパガンダが重視される時代。プーチンも率先して国民向けの心理作戦に関与している」

下っ端のスパイさえ美化

セレブ系元スパイの代表格はアンナ・チャップマンだ。彼女は10年にアメリカで下っ端のスパイとして逮捕されたが、今はロシアでテレビ司会者やモデルとして活躍している。

「チャップマンは取るに足らないスパイだった」と言うのは、各国の諜報活動に詳しい英ノッティンガム大学のダン・ロマス助教。

「大統領のプーチン自身が元スパイの経歴を隠そうともしない国では、彼女のような存在でも立派なスパイとして美化される。ロシア社会では、スパイは尊敬すべき、見習うべき存在なんだ」

スパイを美化する伝統はどこの国にもあるが、今のロシアは諜報機関の出身者で固めた治安国家。スパイが最高に輝くのも当然なのだろう。

イギリスの王立国際問題研究所によれば、かつてのスパイ事件は水面下で処理されるのが常だったが、今はロシアのスパイ活動を白日の下にさらすべきだという考えがあり、各国とも外国のスパイを逮捕しやすくする法整備を急いでいる。

だが、いくら捕まえてもスパイ交換で送還されれば本国では英雄扱いだ。

パブロ・ゴンサレス(本名パベル・ルブツォフ)も、8月1日にモスクワの空港でプーチンの出迎えを受けた。彼はロシア軍参謀本部の工作員で、スペインのジャーナリストを装ってポーランドで活動していた。

それでも帰国時には「スター・ウォーズ」のTシャツ姿で現れ、プーチンと固く握手を交わしていた。

「プーチン政権のために西側諸国で罪を犯したロシア人は英雄だという国内向けの強烈なメッセージ」だと指摘するのは、エストニアの国防・安全保障国際センターのマレク・コフ。

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