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スパイを国民のヒーローに...プーチンの巧妙な「心理作戦」の真相

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月16日 9時41分

「ロシアは何十年も前から欧州大陸でスパイ活動を行っている。当時の欧州はロシアを商売の相手と見なしていたが、ロシアは一貫して欧州を敵と見なし、その力をそぎ、従属させることを目指している」

そして今は、外国で捕まったがスパイ交換でロシアに帰還した者たちを宣伝戦の道具として使っている。コフに言わせれば、「たとえ犯罪者でもロシアは彼らに高位の公的な地位を用意しているぞ、というのが外国向けのメッセージだ」。

それだけではない。旧東欧圏の諸国は先に、NATO条約第5条の集団防衛の原則をあざ笑うようなロシアの「ハイブリッド」作戦が一段と活発化しているとの警告を発した。

昨年7月にはDHLの航空貨物コンテナに爆弾が仕掛けられ、ドイツのライプチヒで火を噴く事件が起きた。背後にはロシアの工作員がいた疑いがあり、アメリカ行きの貨物便を空中で爆破する予行演習だった可能性が高いとされる。

ポーランドやイギリス、チェコ、リトアニアなどで起きた放火事件にもロシアの影がちらつく。

こういうものがロシア流の「ハイブリッド戦争」だ。アメリカ国際法学会が17年に発表した報告書によれば、この戦略を立案したのはロシア連邦軍の参謀総長を務めるワレリー・ゲラシモフだ。

情報戦は安上がりで効果絶大

ゲラシモフは13年の論文で、自らの戦略を西側諸国の東方拡大に対する「非対称的」な対抗と呼んだ。そして政治的・戦略的な目標を達成する非軍事的手段が増えているうえに、「その有効性はしばしば武力の行使を上回る」とした。

具体的手法は、情報操作や宣伝活動、破壊工作、西側諸国の政党への潜入や資金提供から、ロシア軍機による領空侵犯やGPS信号の妨害まで多岐にわたる。実際、22年2月のウクライナ侵攻以来、こうした活動の頻度は増えている。

コフによれば、西側諸国が一致団結してウクライナ支援に回る事態はロシアにとって想定外だった。それで彼らは「非軍事的」な手段にも頼らざるを得なくなった。

「しかもサイバー攻撃や情報操作、放火などは通常の軍事作戦と比較にならないほど安上がりだ」とコフは言う。「だから西側諸国の指導者が何か言えば、ロシアはすぐに反応してハイブリッド攻撃を繰り出せる」

ウクライナ戦争が始まって以来、欧州諸国からは外交官を装ったロシアの工作員600人以上が追放された。しかしEUの外交旅券さえあれば、今でもロシアのスパイはEU圏内には自由に行ける。

そうして現地の犯罪組織に金を渡せば、破壊工作やサイバー攻撃を「外注」できる。

実際、ロイター通信の伝えるところでは、ロンドンでウクライナ関連施設に放火して逮捕されたイギリス人の男は、外国の諜報機関から報酬を得ていたと自供している。

「一般の犯罪者にスパイの下請けをさせるなんて危険すぎるし、どんなに恐ろしい結果を招くか分からない」と、エストニアのコフは言う。

警察と特殊部隊は国内外で安全保障の分野で協力していると、彼は強調する。「ロシアの活動が欧州各地で監視され、明らかにされることが重要だ」




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