ネコも食べない食害魚は「おいしく」人間が食べる...対馬の海を「磯焼け」から救う、ある女性の戦い
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月24日 14時23分
小泉淳子(ライター)
<海藻を食い荒らすイスズミやアイゴは臭いが強すぎて「焼却処分」するしかない──そんな食害魚が学校給食や飲食店の人気メニューに>
アカムツにサバにアナゴ。周囲を海に囲まれた長崎県対馬は豊かな水産資源に恵まれた水産業が盛んな地域だ。海岸の岩場をのぞけば、アワビやサザエがたくさん捕れる。かつての海を知る対馬の大人たちはそう口をそろえる。
ところが今、対馬の海で魚が捕れなくなっている。1982年に4万7000トンあった水揚げ量は、2020年には1万1000トンにまで減少。海藻や海草が繁茂し多様な生き物の産卵や生息の場となっている藻場が衰退し海が枯れる「磯焼け」の被害が深刻であることが一因とされる。
対馬市役所SDGs推進課の前田剛によれば、対馬沿岸では80年代から磯焼けが見られるようになったという。近年は対馬だけでなく、全国的に磯焼けが拡大し、対策が急務となっている。
藻場が消失すると、そこにすむ稚魚を食べにくる魚がいなくなり漁業に影響を与えるほか、海洋植物が光合成によって海中の二酸化炭素を吸収し固定するブルーカーボン生態系も失われることになる。
磯焼けの発生にはさまざまな要因が絡み合っているとされ、地球温暖化による海水温の上昇で海藻の生育が不良になっていることがその1つ。
また、ウニの一種のガンガゼやイスズミ、アイゴといった南方系の植食性魚類の活動が年間を通して活発化し、エサとなる海藻を食べ尽くしていることも要因とみられている。
対馬市では藻場再生や海藻を食べる食害魚の駆除など対策に取り組んできたが、一度崩れた生態系のバランスを立て直すのは容易ではない。後継者不足も加わって漁業者の数は減少の一途をたどり、対馬の水産業は危機にさらされていた。
臭みが強くて食べられなかったアイゴ MIT
ネコも食べない魚が変身
そんな対馬で豊かな海を取り戻そうと、食べる磯焼け対策「そう介(すけ)プロジェクト」を始めたのが、水産物の加工・販売を行う丸徳水産を家族で経営する犬束ゆかりだ。海に行っても何も捕るものがなく、どんどん海が枯れていくのが分かり胸を痛めていたという。
ある時、丸徳水産が営む飲食店「肴や えん」を訪れた客から、駆除したイスズミやアイゴが焼却処分(当時)されていると聞き、資源として活用できないかとメニュー開発に取り組むことを決めた。
イスズミやアイゴは臭いが強く、まずくてネコも食べないといわれている魚。昔から対馬に生息していたものの、海が豊かだった時代は他の魚が捕れたため漁業者が関心を持つことはなかった。だが海で捕れるものがないのなら、捕れるものを食用にしようと犬束は試行錯誤を重ねた。
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