不法移民追放、仮想通貨の規制緩和......トランプ2.0の米経済に忍び寄る「リーマン2.0」
ニューズウィーク日本版 / 2025年2月4日 16時0分
河東哲夫
<現状に不満を抱える層を丸め込むためのトランプの経済政策は金融危機の引き金になりかねない>
いよいよ「待望」のトランプ2.0。「アメリカを再び偉大に(MAGA)」だけなら幸運を祈るしかないが、大統領就任演説では、富を奪うだの、領土を拡大するだのの言葉が平気で飛び出す。アメリカをロシアや中国と同等、いやそれ以下におとしめる発言だ。
トランプは関税を引き上げ、移住者を強制送還しようとする。国境や関税の勝手な変更を戒める国連憲章やWTOなど、なきがごとし。世界は大国の談合で仕切る。中小はまな板の上でおとなしく料理されるのを待っていろ、というわけで、これは、トランプがかつて働いていた不動産業界の論理だ。
しかしこれでは、MAGAは無理。気を付けないとMANGAで終わってしまう。アメリカはトランプのような口先、小手先の措置では良くならない。ポスト工業化の時代にある米経済は、金融業に大きく傾いている。国民の多くは、株や債券など金融商品への投資から得られる所得に大きく依存している。
市場にあふれるカネは、製造企業をまるごと売買の対象としてしまい、株を取得すると強引なM&Aや合理化策を押し付けて、その企業の株価を上げては売り抜けようとする。ボーイングは株主の圧力下、過度の合理化で部品の質が低下し、相次ぐ事故を起こしたとされている。日本製鉄が買収しようとして問題になっているUSスチールも、短期的利益を求める株主や労組の反対で近代化投資ができずに経営困難に陥った。
これは生産活動というよりゲームなので、勝った者がGDPのほとんどを取るから、大多数の生活は苦しくなる。政治資金は青天井化し、「資本家」からの大口献金が選挙後の与党の行動を大きく縛るから、企業従業員の福祉は二の次。トランプは不満を抱える層を丸め込んで票を稼ぎ、「君たちの窮状は不法移民や外国の安い製品の流入のせいなのだ」と言い立てて、外国に彼らの怒りを向けようとする。
利上げと利下げの間で揺れる米政府
しかし、こうしたやり方がうまくいくとは思わない。不法移住者の追放、関税引き上げ、エネルギー資源掘削の規制緩和、仮想通貨の規制緩和など、たとえできても1度きり。その後はもう不満層に見せるカードはないのだ。それどころか、逆効果が続々と明らかになってくるだろう。
移住者追放は労働力不足を招く。エネルギー資源開発の規制緩和は原油・ガス価格を下落させて、業界の利益を低下させる。仮想通貨はバブル化して高騰し、その後価格が崩壊すれば、金融危機の引き金になりかねない。トランプ2.0ならぬ、「リーマン2.0」になってしまう。
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