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日本は「景気拡大なき高金利時代」に突入する瀬戸際...政府が減税より「賃上げ」に注力すべき理由

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月29日 18時11分

INDYSYSTEM/ISTOCK

加谷珪一
<積極的な賃上げを表明している大企業だけでなく、労働者の7割を占める中小企業にも賃上げの動きを波及させる政治的な取り組みが不可欠だ>

年が明け、春闘の季節が近づくにつれて、賃上げに関する議論が活発化している。昨年の春闘は、これまでにない水準の賃上げが実現し、今年も大企業を中心に4~5%の賃上げが実現する可能性が高い。

金利上昇で業績が拡大傾向となっている金融機関を中心に、初任給を30万円あるいは40万円など、従来よりも高い水準に設定する企業も出てきており、企業における賃上げ機運は高まっているといえるだろう。

もっとも、積極的な賃上げを表明しているのは大企業が中心であり、労働者の7割を占める中小企業には、賃上げの動きは十分に波及していないのが実情だ。中小企業は大企業の下請け的な業務に従事しているケースが多く、大企業が中小企業に対してコストの価格転嫁を認めない限り、中小企業は賃上げ原資を確保しにくい。

石破政権は賃上げを政策の最重要課題の1つと位置付けており、2020年代に最低賃金を1500円に引き上げる方針を掲げるとともに、適切な価格転嫁を促す施策の立案を関係閣僚に指示した。旧態依然とした商慣行が賃上げを阻害している現実を考えると、石破政権の一連のスタンスは相応に評価していいだろう。

中小企業の再編が進まない理由

しかしながら、持続的な賃上げを実現し、それを成長につなげていくにはそれだけでは不十分である。

中小企業の経営体力は極めて弱く、十分な資金調達も難しいことから、デジタル投資を中心とした大規模な設備投資には踏み切りにくい環境にある。政府は中小企業の設備投資を促進する政策パッケージを用意すると同時に、中小企業の再編を支援することで、企業の基礎体力そのものを増加させる必要がある。

日本の人口当たりの企業数はアメリカと比べると多く、中小企業には再編の余地が残されている。だが日本の場合、経営者個人が借り入れの連帯保証人になるなど、個人保証が課されるケースが多く、これが中小企業のM&A(合併・買収)を妨げているとの指摘がある。

政府が各種支援策を提供することで、中小企業同士のM&Aがスムーズに実施できるよう環境整備を行うと同時に、公的機関を設立し、経営者の個人保証を基金に移管するといった金融的な対策も必要となるだろう。

税制面の工夫も求められる。これまで政府は、賃上げした企業には法人税を減税するなどのインセンティブを付与してきたが、十分な効果を発揮しているとは言い難い。

対策すべき政府に残された時間は少ない

日本の法人税は度々減税されており、企業にとってもはや減税そのものは魅力的には映らなくなっている。むしろ賃上げや設備投資に消極的、あるいは下請けの価格転嫁を認めない企業に対して、法人税率を上げたり、優遇税制を停止するなど、いわゆる逆のインセンティブを付与するなど、厳しめの措置も必要となってくるだろう。

このところ国民からは賃上げではなく減税を求める声が高まっているが、これは賃金はもう上がらないのではないかという不安から生じたものといえる。国民生活を向上させる切り札はやはり賃上げであり、政府はこの本丸を攻めることに注力すべきである。

債券市場ではジワジワと長期金利が上昇しており、このまま何もしなければ景気拡大なき金利上昇時代に突入してしまう。政府にとって、継続的な賃上げを実現するまでに残された時間は少ない。



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