「社会科学の女王」経済学がコロナ禍で示した存在感と役割...他方、「学問の基盤」が脆弱化する日本の現実
ニューズウィーク日本版 / 2025年2月5日 11時0分
筆者の専門に照らせば、政策過程がテレビでの話題やSNSなど「可視化された民意」に過度に影響を受けたのではないかという懸念(「耳を傾け過ぎる政府」(拙著『コロナ危機の社会学』等))や、政治日程や力学が緊急事態宣言をはじめとする諸政策の決定に与えた影響なども気になるところである(後者は最近、当事者らの手記や、政治学などで幾つかの研究が出始めている)。
コロナ危機に対する社会科学の知見の活用可能性に関する議論は経済学以外の分野でも活発化しつつある。それらの医療分野、政策実務を含めたネットワーク化も期待されるところである。
しかし、過去10年のあいだに日本では経済学を含む、社会科学系の博士課程進学者が半減している現実もある。そのなかでどれだけ新型コロナ対策をはじめとする社会科学における非伝統的分野を専門、あるいは副専門とするような人材が生まれているかといえば経済学においてさえ、いささか心許ないのではないか。
感染症対策、危機管理を専門とする医療関係以外の大学、研究職ポストも管見の限りではそれほど多くはない。
研究費の多くがテーマ(と予算の使途)が定められた競争的資金化し、大学における裁量的研究費が減じているというとき、急な危機を眼の前にしても研究者が対応できない、対応するための資源が乏しいという問題も残っている。
分野を越えた共同研究どころではないほどまでに、学問の基盤が弱まっているのが2020年代の日本の大学の現実でもある。
本特集は「経済学の女王」としての経済学の現時点の力強さと可能性を一般読者含めて、平易にまた説得的に示唆するとともに、前述のような諸課題を想起させる価値あるものといえる。読者諸兄姉に一読を勧めたい。
西田亮介(Ryosuke Nishida)
1983年京都生まれ。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。立命館大大学院特別招聘准教授、東京工業大学大学マネジメントセンター准教授、同大学リベラルアーツ研究教育院准教授などを経て、現職。著書に『コロナ危機の社会学』(朝日新聞出版)、『メディアと自民党』(角川書店)、『ネット選挙』(東洋経済新報社)ほか多数。
『アステイオン』101号
公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
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