今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望している理由
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月30日 6時45分
梶谷 懐(神戸大学大学院経済学研究科教授)、高口康太(ジャーナリスト、千葉大学客員教授)
<初期の一帯一路は失敗したが、金欠となった後も、中国の「国内経済事情」から継続されている。「質の高い発展」を掲げた対外政策はなぜ魅力を失ったか>
*本稿は、『幸福な監視国家・中国』で知られる気鋭の経済学者とジャーナリストが、世界を翻弄する中国の「宿痾」を解き明かした新刊『ピークアウトする中国――「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)より、一部を抜粋、加筆・編集したものです。
◇ ◇ ◇
前回の記事では、初期一帯一路とは、過剰な生産能力とマネーのはけ口として途上国を支援する構想を持っていたこと、そしてそれが中国の資本過剰が解消されたことによって数年で頓挫したことを述べた。
*前回の記事→ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「一帯一路」の真実
だが、その後も一帯一路は続いている。以前とは異なる、いわば「一帯一路2.0」はどのようなものに変貌しているのか。
「一帯一路2・0」への転換
「内向き」に転じた2019年頃から、習近平国家主席は一帯一路について新たな方向性を打ち出すようになる。それが「質の高い発展」への転換だ。
「質の高い発展」が具体的に何を意味するのかは判然としなかったが、2023年10月開催の第3回一帯一路国際協力サミット・フォーラムでようやくわかった。日本総研エコノミストの佐野淳也らによれば、一帯一路の方向性は徐々に変化してきたが、このサミット・フォーラムで公式に表明されたという。
サミット・フォーラムでは、グリーン投資やイノベーションといった「質」重視の姿勢への転換が打ち出された。習近平国家主席は、一帯一路に関する八つの行動計画を発表。電子商取引試験区の設置、職業教育、環境問題、人工知能(AI)、汚職防止といったソフト面の取り組み目標が多く掲げられた。
中国の資材と資金で途上国・新興国にインフラを建設するという「一帯一路1.0」から、中国製品・サービスの輸出と中国式統治ノウハウの伝授という「一帯一路2.0」への転換が鮮明に示されている。
グリーン・マーシャル・プランの可能性
また、一帯一路にかかわる企業の顔ぶれも変化した。「一帯一路1.0」の主要プレイヤーは融資を担当する国有銀行であり、大型インフラ建設を受注する国有企業であった。
2.0では民間企業が主役だ。今後、注目されるのはEV(電気自動車)、太陽光パネル、車載バッテリーといったグリーン製品の途上国・新興国への輸出がどれほど活発化するかだろう。
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