トランプ「関税戦争」を受け、大量の「金塊」がロンドンから流出...「金の大移動」はなぜ起きた?
ニューズウィーク日本版 / 2025年2月1日 18時20分
木村正人
<金価格の高騰が続くなか、820億ドル相当の金塊がニューヨークに集まる事態に。トランプの動きを懸念する取引業者や金融機関が先手を打った形だ>
[ロンドン発]「ドナルド・トランプ米大統領の関税発動を懸念するトレーダーたちが820億ドル相当の金塊(金地金)をニューヨークにかき集めている。英中央銀行・イングランド銀行からの金塊引き出しの待ち時間が数日から4~8週間に延びている」
英紙フィナンシャル・タイムズ(1月29日付)は事情通の関係者の話として「ニューヨークに大量の金塊が送られている。新たな金塊を手に入れるため列に並ばなければならない」「ロンドン市場の流動性は低下している」と報じた。
FT紙によると、昨年11月の米大統領選で全輸入品に一律10~20%の関税をかけると宣言していたトランプ氏が勝利して以来、金取引業者や金融機関がニューヨーク商品取引所の保管庫に金塊393トンを移動させた。このため金塊の備蓄は74%増の926トンに達した。
金地金にもいわゆる「トランプ関税」との懸念
トランプ氏は2月1日からカナダとメキシコからの全輸入品に25%、中国には10%の関税を課すと表明している。市場ではこれまで対象外だった金地金にいわゆる「トランプ関税」が適用されるのではないかとの懸念が膨らんでいる。金塊の大移動は先手を打った関税回避だ。
世界金融危機、欧州債務危機、コロナ経済対策で日米欧中銀は異次元の量的緩和を行い、インフレ対策で利上げを行った現在でも18兆3000億ドルの資金が世界中を彷徨う。これが株高、金や仮想通貨の価格高騰を生み、金価格は一時、史上最高値の1キログラム当たり9万ドルを突破した。
米国への金塊流入は表面化しているよりはるかに多い可能性がある。ロンドンの現物市場よりニューヨークの先物市場の価格が高いことに目をつけたトレーダーたちが価格差を利用した裁定取引を行っていることが金塊大移動の理由の一つになっているという。
英中銀総裁「100年前は金本位制、現在は金本位制ではない」
イングランド銀行のアンドリュー・ベイリー総裁は1月29日、英下院財務委員会でニューヨークへの金塊流出について下院議員に追及され「リスクの観点からはそれほど大したことではない。 第一に金はかつてのような役割を果たしていない」と火消しに努めた。
「 100年前にこの問題を議論していたら、私たちは全く異なる世界にいた。100年前は金本位制、現在はそうではない。その意味で政策上重要ではない。(トランプ)関税の影響に備えているようなことをほのめかしているようだが、果たしてどうだろう」(ベイリー総裁)
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