「極右」に屈したドイツ次期首相候補...ナチスを想起させる「タブー破り」に、16万人が抗議
ニューズウィーク日本版 / 2025年2月4日 18時47分
木村正人
<メルツ党首率いるドイツ最大野党のキリスト教民主同盟(CDU)が極右「ドイツのための選択肢」の協力を得て提出した移民制限法改正案は否決されたが>
[ロンドン発]ドイツ連邦議会(下院)は1月31日、移民制限を厳格化するため次期首相の最有力候補フリードリヒ・メルツ氏率いる保守の最大野党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の支持を得て提出した法改正案を否決した。
ドイツでの難民申請はシリア内戦の激化による欧州難民危機で2015、16年に計122万件超、ロシアのウクライナ全面侵攻で22年以降、計83万人超にのぼる。一方、大量の難民を支える経済力は対ロシア制裁、中国製電気自動車(EV)の台頭で苦境に追い込まれている。
昨年12月、マクデブルクのクリスマス市にSUVが突っ込み、6人が死亡、299人以上が負傷した。サウジアラビア出身で難民認定を受けた医師が逮捕された。ドイツでは最近、難民による無差別殺傷事件が相次いでいる。
このため反移民感情が強まり、ドイツ国民の約3分の2が移民制限と国境管理の強化を唱える中、2月23日に総選挙が行われる。
禁断の極右勢力との政治協力
同連邦議会は全733議席中、CDU/CSUが196議席、AfDが76議席。693議員が投票し、反対350票、賛成338票、棄権5票で否決された。極右勢力との協力に与野党から批判が噴出し、CDU/CSUからも造反者が出た。1月29日の動議に賛成した自由民主党(FDP)も反対に回った。
ドイツではナチスの反省から第二次大戦後、極右勢力との協力には厳格な「防火壁」が設けられてきた。CDU/CSUは総選挙の世論調査で30%と首位に立つ。20%台前半で2位のAfDを支持する保守層の奪還を狙って禁断の極右協力に踏み出したメルツ氏の戦略は裏目に出た格好だ。
メルツ氏が主導した移民流入制限法の強化案はドイツへの移民数を減らすことを目的にしている。難民が家族をドイツに呼び寄せることを制限し、不法滞在する人を強制送還するためより厳しい措置を求めていた。欧州の保守政党は極右に流れた票を取り戻そうと必死だ。
「難民・移民政策を転換するため多数派獲得を目指す」
メルツ氏は X(旧ツイッター) にこう投稿した。「私たちは私たちが正しいと考えること、正しいと信じることを表明した。残念ながら与党の社会民主党(SPD)と緑の党はこの道を一緒に歩もうとはしなかった。私たちは難民・移民政策を転換するため多数派獲得を目指す」
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