教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
ニューズウィーク日本版 / 2025年2月5日 11時30分
舞田敏彦(教育社会学者)
<新規採用教員のうち4割近くの出身学部の入試偏差値は50に満たない>
戦前期では、教員養成は公立(官立)の師範学校で行われていたが、戦後になってから「開放制」の原則がとられるようになっている。私立大学も教職課程を設置でき、それを履修すれば、教員免許状を取得することができる。
字のごとく教員免許状の取得ルートを「開放」することだが、時代と共に教員のリクルート源は多様化してきている。公立学校の新規採用教員の学歴を見ると、2001年度では教員養成大学出身者が40.4%、一般大学出身者は44.9%だったが、2024年度では順に24.5%、66.0%と、一般大学卒の比重が高まっている(文科省「公立学校教員採用選考試験の実施状況について」)。
教職課程を設置する私立大学が増えているためだろう。教員免許状を取得できることは、学生募集の上でもアピールポイントになる。今では、大半の大学で教員免許状を取得できると言っていい。
だがよく知られているように、私立大学は、いわゆる入試難易度によって精緻に階層化されている。この中のどの層から、教員は供給されているか。旺文社の『大学の真の実力2025』に、各大学の学部別に教員就職者の数が出ている。関東1都6県の231大学・865学部からの教員就職者は9454人(2024年春)。これらの人を、出身大学のタイプで分けてみると<表1>のようになる。
全就職者(20万3170人)、公務員就職者(1万594人)、教員就職者(9454人)の%分布を示している。右端の教員就職者を見ると、国公立出身者は15.2%で、残りの84.8%は私立出身者だ。この私大卒を偏差値グループで分けると、下が厚いピラミッド型で、教員就職者の37.9%が偏差値50未満の私大卒となっている。
教員就職者の出身大学・学部のランクは、全学生でみた場合よりも、低いほうに偏っている。教員の不人気もあり、最近では学力が同世代の中央値にも満たない人が教壇に立つことも多くなっているだろう。「倍率が高かった20年前であれば採用されなかったような人が、教壇に立っている」。こういう声が現場でも聞かれる(「『できていないんです』泣き始めた新人教員 大量採用時代、育成に苦悩」西日本新聞2021年9月12日)。授業参観で、保護者が教師の間違いを指摘する光景が日常になるかもしれない。
教員の不人気を解消し、優秀な人材に来てもらおうと、国も教員の処遇改善に取り組んでいる。2024年6月の中央教育審議会答申では、残業代の代わりに支給する教職調整額を4%から10%に引き上げる、という案が示された。だが、現場の教員は不満顔だ。それもそのはず、ただ数字が変わっただけで、「定額働かせ放題」の仕組みは維持されるからだ。
そもそもお金云々ではなく、教員があたかも「何でも屋」のように扱われている現状を変えなければならない。現場の教員が思っているのは、「カネはいいから、時間(ゆとり)をくれ」に尽きる。教員は、教えることの専門職。この原点に立ち返り、役割革新を進めることが真の処遇改善というものだ。
<資料:旺文社『大学の真の実力2025』、
ベネッセ「マナビジョン」>
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