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「あっという間の1年、ハワイアンズ復活が本当に嬉しくて」 新人フラガール・水野のぞ美<インタビュー「3.11」第7回>

ニコニコニュース / 2012年3月8日 19時5分

新人フラガール・水野のぞ美さん

 東日本大震災の後、ニコニコ動画が被災地を取材した中で印象的な女性がいた。福島県いわき市にある温泉施設「スパリゾートハワイアンズ」でフラダンスを躍るフラガール・水野のぞ美さん(19)だ。毎年4月、新人フラガールたちは躍りを学ぶため、ハワイアンズが運営する「常磐音楽舞踏学院」へ入校する。震災に見舞われた昨年の春には新入生6名が入学したが、その中で唯一ダンス経験がなく、右も左もわからない状況でフラガールとして歩み始めたのが水野さんだった。

 福島県いわき市にあるハワイアンズは施設の一部が損壊し、1年近くもの一時休業を余儀なくされた。営業再開の目途もたたないまま、ひたすらレッスンが続く日々を送った新人フラガールは、この1年をどのように過ごし、感じてきたのか。そして昨年10月の初舞台、今年2月の全館オープンを経た今、何を思うのか。

・東日本大震災 3.11 特集
http://ch.nicovideo.jp/channel/311

(聞き手:武田敦子)

■入校控えた3月11日・・・震災直後は「とにかく生きるのに必死だった」

 「常磐音楽舞踏学院」への入校式を4月1日に控え、希望を胸にふくらませていた3月11日、東日本大震災が日本を襲った。その時、水野さんはどこで何をしていたのか。

「いわき市内にあるショッピングセンターにいて、その時地震に遭いました。ショッピングセンターからはすぐに出て、ちょっと落ち着くまではそこにいたんですけれど、とにかく家に帰ろうと思って。もう車の免許を持っていたので、車で帰宅したんですが、渋滞で車がまったく動かなくて、家に着くまで2時間くらいかかりましたね。

電話もまったく通じなくて、家族の安否が心配でした。姉のところに生まれたばかりの姪がいたので、大丈夫かなっていうのがとにかく不安で。でもメールは届いたので、お母さんから『お姉ちゃんと電話で話して大丈夫だったよ』ってメールで知らせてもらって安心しました」

 自宅は壁が崩れた程度で大きな被害はなかったが、水も食料もなく、ガソリンなどの物資も届かない状態。震災直後は「とにかく生きるのに必死だった」という。

「水が出ない、食べるものもない、もう本当に『生きる』ことに必死で、4月1日に無事入校できるのかなっていう不安もあったんですが、それ以上に『これからどうなるんだろう』という気持ちのほうが大きかったですね。

でも、ハワイアンズから『4月26日に入校式を行います』という連絡をいただいたときは、すごくホッとしました。周りで内定を取り消されたという話もけっこう多く聞いていたので、『ああ、仕事がちゃんとできるんだ』という安心感で、ものすごく嬉しかったです」

 震災直後、行き先が見えない極度の不安状態の中、自分がフラガールとしての一歩を踏み出せたということが、水野さんにとって大きな希望になった。入校生6名のうち、いわき市出身の5名全員(1名は秋田県出身)が揃って入校できたことも、「とても嬉しかった」と笑顔を見せた。

■同期で唯一ダンス経験なし 「足を引っ張っている」と自己嫌悪に

 4月26日に無事入校式を終え、5月2日からフラガールとしてのレッスンが始まる。6名のうち、水野さんを除く5人はフラやタヒチ、バレエなどダンスの経験者ばかり。1人だけダンス未経験者としてのレッスンだ。

「わたし以外はみんなダンスをやっていたので、いろんなステップを知っていたり、振りを覚えるのが本当に早いんです。自分だけ何もわからない状態で、初めは『置いていかれてる』という気持ちのほうが強くて。先生から振りを教えていただいても、自分だけすぐに覚えることができなかったりして『自分は同期の足を引っ張ってるな』と」

 自己嫌悪。喰らいついていかないと置いて行かれる一方だ。ダンスの難しさや振りを覚えられない悔しさ、「このままやっていけるのかどうか」と真剣に悩んだこともあった。

しかし、そこが自分自身に打ち勝つ壁でもあった。辛いときに水野さんを支えてくれたのは、同じ目標に向かって走る同期や先輩たちだった。レッスン以外に自主練習も行い、わからないことはとにかく同期や先輩に聞いて教わった。悩み苦しんでいた時、そばに「仲間」がいてくれたことに、「本当に助けられた」と水野さんは語る。

■辛い時に心の支えになった親とのメールと映画「フラガール」

 本来なら7月1日には初舞台を経験する新人フラガールたちだが、施設が閉鎖中では、デビューがいつになるのかもわからない。先輩たちが「復興」を掲げた「フラガール全国きずなキャラバン」で全国をまわっているときも、舞台に立てる日を信じてひたすらレッスンを行う日々を送った。そしてついに10月1日、ハワイアンズの一部営業が再開され、水野さんたちの初舞台は10月12日に決まる。

「先輩たちが全国キャラバンに行っている時も、ずっと再開に向けてレッスンしていました。同期と『デビュー、いつになるんだろうね』って話したりしていましたから、いつ初舞台になるんだろう?という心配は常にありました。ですから、ようやく日程が決まった時は『ああ、やっとデビューだ!』という気持ちでしたね。

約半年間、一緒にレッスンを重ねてきた6人が『誰も欠けることなく初舞台を踏めた』ということがすごく嬉しかったです。でも、実は初舞台が決まった時『やった!』とか『ついに来た!』というよりは、不安のほうが大きかったんですよ。ちゃんと踊れるかな、とか間違えないでできるかな、という」

 営業再開を、そして初舞台を目指して前向きにレッスンを重ねてきた水野さんだが、デビュー前にはプレッシャーとの戦いに苦悩した。

「デビューが決まってから、毎日夜中までレッスンがあったんです。夜レッスンが終わるともうくたくたで。自分たちもデビューということで『躍らなきゃ!』『笑顔作らなきゃ!』ということがプレッシャーになって、気持ちがいっぱいいっぱいになっていましたね。

ただ、それ以上に先輩たちは昼ショー、夜ショーに出て、さらに夜練というハードなスケジュールです。『自分だけが辛いんじゃない』・・・そう思うものの、どうしても笑顔が出なくて。『どうしたら笑顔になれるんだろう』ってすごく悩んだんです」

 その時、心の支えになったのが、毎日のように親から届いたメールだった。他愛もないメールのやりとりなのに、涙が止まらなかった。応援してくれる家族のためにも、踏ん張りどころだと思った。2006年に公開された映画「フラガール」からも、前向きな気持ちをもらったという。

「もう何回も見ましたね。とくにデビュー前、ものすごく落ち込んだ時にDVDを借りてきて、この映画を見ることで『よし!頑張ろう!』って、勇気をたくさんもらいました」

 この「フラガール」という作品は、昭和40年、大規模な事業縮小に追い込まれたいわき市の常磐炭鉱が、町おこし事業として立ち上げた常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)の、成り立ちから成功までの実話がベースになっている。炭鉱で働く人たちの失業、この先どうなるかわからないという苦悩の中、町の復興を、地元住民の幸せを願って必死に練習に励むフラダンサーたちの姿が、水野さんたちの姿に重なっても見える。

 そうして臨んだ初舞台。今までのレッスンと自分を信じて無我夢中で躍った。デビューステージを見に来た家族が、すごく笑ってくれたのを覚えているという。家族の笑顔、それは水野さんのデビューという彼女の成長ぶりと、ハワイアンズ再開で復興第一歩となったいわき市民としての二重の喜びであったのだろう。

■「この1年あっという間だった」 4月からは先輩フラガールに

 震災以前から建設していた新ホテル「モノリスタワー」が2月8日にオープンし、これに合わせて震災の影響で休業していた施設も全館営業を再開した。震災から約1年、フラガールたちのステージもようやく復活だ。

「この1年、あっという間だったなと思いました。震災が来たときには、私だけではなくて、誰もが『この先どうなるんだろう』と思ったと思うのですが、ものすごく早かったな、と感じます。

やっぱりハワイアンズはいわきにとって、本当にシンボルのようなものだと思うんです。わたし自身、小さい頃からいわきに住んでいて、それこそ毎年のように遊びに来ていた場所なんですね。ですから、この1年でハワイアンズが復活したというのは、もう本当に嬉しくて。『自分も遊びに来たい!』って思っちゃいました(笑)」

 「いわきのシンボル」と言えるハワイアンズの再開が被災地の復興につながると信じて、無我夢中で厳しいレッスンの日々を送った水野さんだからこそ、この1年が「あっという間」の出来事のように感じたのだろう。レッスンを続けながら営業再開を待ちに待った水野さんの言葉には、ショーを通じてもっともっとお客さんに楽しんで、笑顔になって帰ってもらいたい、という素直な気持ちが溢れていた。

「営業再開のときも、グランドオープンのときも、いろんな県からたくさんのお客様がいらしてくださいました。躍っているわたしが笑顔で勇気を与えなきゃいけないのに、来てくださっているお客様から、逆に勇気をもらうことがたくさんあります。

ハワイアンズがオープンして、お客様にとても楽しんでいただいていると思うのですが、それ以上にフラガールのショーを見て、もっと楽しんで帰ってもらえるように、笑顔で頑張って躍りたいです」

 グランドオープンから約1ヶ月。日帰り温泉としても愛され、地元の人も再開を心待ちにしていたハワイアンズには、現在平日で2000人、休日にはその倍の4000人が訪れるという。施設内には、全国キャラバンや営業再開時に、お客さんからの応援メッセージが飾られており、本当にたくさんの人たちがハワイアンズの復活を、そしていわきの復興を願っていたことがうかがえる。

 フラガールが一人前になるには、4年から5年ほどの年月がかかるという。

「まだまだ未熟なのでまずは先輩に追いつき、いつかはソロで踊れるようになりたい」

 笑顔で将来の夢を語ってくれた水野さんは、4月から新入生の先輩フラガールとしての道も歩み始める。もっともっとたくましく可憐に、そして更にたくさんの笑顔で見る人に勇気と元気を与えてくれていることだろう。

◇関連サイト
・スパリゾートハワイアンズ - 公式サイト
http://www.hawaiians.co.jp/
・東日本大震災 3.11 特集
http://ch.nicovideo.jp/channel/311

(武田敦子)



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