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「ツイッターは首長向き」熊谷俊人・千葉市長が明かすネット活用術

ニコニコニュース / 2012年6月15日 14時12分

熊谷俊人・千葉市長

 今年4月3日、時事通信が驚くべき記事を配信した。「千葉で『ヨウ素10兆ベクレル』未公表=昨年3月、世界版SPEEDI試算」というタイトルで、千葉市内で毎時10兆ベクレルという極めて高い数値のヨウ素が検出されたと報じるものだった。

 これは事実ではなく、完全に誤った内容だった。時事通信はすぐに記事を修正したが、すでに時遅し。ネット上では「千葉で放射能汚染か」と、デマ情報が拡散していた。そんなとき、冷静に「待った」をかけたのは、千葉市長の熊谷俊人氏だった。熊谷氏は、その日のうちにツイッターで「事実確認をしたら、千葉市の計測値を元に原発の放出量総量を推定すると10兆ベクレルということだったようで最初の記事が相当誤っていたようです」と記事の間違いを指摘。「時事通信から訂正・お詫び記事を配信して頂きました」と報告した。

 こうした熊谷氏の情報発信について、ネット上では「千葉市長しっかりしている」「冷静にやっている姿は素晴らしい」などの声が相次いだ。熊谷氏は34歳。NTTコミュニケーションズを退社後、千葉市議を経て、2009年に現役最年少市長となった。IT企業で培ったネットスキルを生かして、普段からブログやツイッターで市民との会話を積極的に続けてきた熊谷氏に「ネットと市政」がどうあるべきか聞いてみた。

(聞き手・山下剛)

■「市政だより」の情報が届いていなかった

――ツイッターを積極的に市政に生かしていますが、ツイッターを使うようになったきっかけは何ですか?

 2年ほど前に、知人から薦められたのがきっかけです。私は以前からブログをやっているのですが、コメントを書いてくれる人はとても少ない。しかしツイッターだと返事がすぐに来ます。140字という文字制限もあってか、脊髄反射的にコメントを返せるメディアだと思いました。

 私はツイッターを、広報手段であると同時に広聴、つまり検討中の施策をそれとなくツイートすることで市民の反応を確かめることもできる「即席アンケートツール」のように使っています。もちろん一部の方たちの反応ではあるのですが、それでも非常に便利なツールですね。

――ツイッターを使って、市民との対話会も行っていますね。

 年に2回開催しています。そもそもリアルの対話会をこれまでも実施していて、市民の方々と顔を合わせて直接意見を交換し合う機会を設けてきました。ツイッター対話会は、それと同じテーマでやっています。スケジュールの都合などで対話会に来られない、またはそもそも来ない人たちの意見を知ることが狙いです。

 対話会の参加者の年齢層は高く、積極的に市政に関わろうとしている人たちですが、ネットの人たちは若く、政治にあまり関心のない人たちが多い。今まで私たちが情報を伝えて届かなかった人たちに、初めてコンタクトができた感じですね。市役所の職員たちは市政だよりで情報を発信してきたのですが、それが(対話会の参加者に)まったく届いてなかったことをようやく理解し、愕然としていました。

■「行政だって市民だってバカじゃない」

――ブログの更新もほぼ毎日と頻繁ですが、ツイートもかなりマメにしていますね。どんな時にどんな場所でツイートしているのですか?

 役所の机でやることは基本的にありません。移動時間や、自宅にいるときの空いた時間を使っています。政治家はとにかく移動が多いですから、その時間を有効に使えるツイッターはとくに首長向きですね。

 市民は千葉市の施策をすべて知っている人間の一次情報を取ることができるし、首長だからこそすべての答えが返ってくる。私は市民の意見を知ることができる。お互いにとってこのメリットは大きいと思います。これは役所にはできませんし、役所の業務にも支障をきたしません。

――行政のこと以外に、家族のことなどプライベートも書いていらっしゃいます。

 やはり硬いことばかりだと親しみにくいものですし、人間味がないとおもしろくありません。読むほうもそうだと思いますが、書くほうとしてもそうですね。

――熊谷市長は政治マニフェストのひとつに「情報公開」を挙げていますが、その実現のためにもツイッターは有効ですか?

 その通りです。役所と市民とでは持っている情報量が違いすぎて前提条件が揃わず、議論にならないことが多いのです。役所と市民で情報の量と質を揃えて、スタートラインを同じにしたいのです。

 ひとつの例としては、市民税があります。「うちの市は市民税が高い」と思い込んでいる人は非常にたくさんいます。しかし市民税は全国統一で、どこの市でも変わりません。これは市民が悪いのではなく、こちらが発信している情報が届いてないせいなのです。

 これまでの役所は細かいところにこだわりすぎて、たとえばゴミの削減にしても「水を切れ」とか「雑紙をこう分別しろ」など、箸の上げ下げ的なことを言います。人をバカにしているかと思うほど細かい。

 そうではなく、「どうしてゴミを削減しなければならないのか」の理由を言えば、市民はちゃんと方法を調べますから、そこに労力を割くことはないんです。私は就任してからずっとそれを言っています。

――役所の情報発信は、ある意味、市民を信用していないということですね。

 だからいつまで経っても誤解されてしまう。「市民は行政や役人や政治家をバカにする」「役人は政治家をバカにする」という構図がなくならない。行政だって市民だってバカじゃないし、行政のやっていることの9割は正しいわけです。

 しかしなぜ正しいかの理由、前提条件を言わないと理解してもらえません。何かを値上げすれば市民は怒ります。怒られてもいいから理由を提示した上で、他に手段があるかを議論するべきです。

――情報公開を進めて前提条件を揃えることで、その誤解はなくなりますか?

 同じ立場で物事を考えて答えを出していかないと、飲み屋の政治談議で終わってしまいますし、一方的な批判はボヤキでしかありません。ツイッターやブログで一次情報を持っている首長と意見を交わせるのですから、疑問や批判があったらどんどん投げかけてもらって、皆さんと共通認識を持っていきたい。そうすれば同志になれるので、建設的な意見を出し合って議論していけます。

――たしかに、日本の政治と市民の関係は「お上と庶民」という体質をひきずっていて、互いに責任のなすりつけ合いをしているところがあります。それを捨て、本当の民主主義を実現できるかの転換期であるということですね。

 ツールを手にした一人ひとりが試されているといえるでしょうね。インターネットという双方向メディアは本当にすごいと思います。ツイッター、フェイスブック、ニコニコ生放送も......。こんな時代は考えられないですよね。これでダメだったら日本の民主主義は何やってもダメだっていう(笑)。

■ツイッターやブログは「新しい武器」

――情報公開を進めることが行政と市民との情報格差をなくし、共通認識を持つことで平等な意見交換ができるようになるわけですね。しかし懸念のひとつとして、首長や役所が情報公開を進めていくと、あまりに膨大なために市民が必要な情報を探せなくなり、結果として情報に目を向けなくなる恐れがあります。すると役所やメディアが情報を整理して提示しろということになり、振り出しに戻りかねないということですね。

 マスメディアが重要なのは変わりありませんから、とにかく第一に情報を出しています。ツイッターやブログはマスメディアに対抗するためではなく、紙面や時間の都合でまとめきれない部分を我々が発信するものです。あるいは私自身の考えを発信して、みなさんが考える際の指標にしていただく。

――先ほどの話で、対話会は年齢層が高く、ネットは若いという話がありましたが、ツイッターやブログで情報公開を進めていくと年齢層によって情報格差が生まれる心配はありませんか?

 これも同じです。新聞やテレビといったマスメディア、それから市政だよりなどの既存情報が持つメリットは、ネットが登場したからといって消えるものではありません。既存の伝達手段もこれまで以上に活用していきます。

 ツイッターやブログは、そうした既存のものに加わる新しい伝達手段で、さらに新しい武器を手にしたといったところです。とくにこれまで政治に興味を持たなかった層とコミュニケーションできるすばらしいツールですから、もっともっと活用していきたいし、市民の皆さんからも質問や疑問、批判などもコメントしてもらいたいですね。

 インターネットを使えば政治はさらによくなると考えていますし、政治を身近なものにできると思います。

(了)

◇関連サイト
・熊谷俊人(千葉市長) - Twitter
https://twitter.com/#!/kumagai_chiba
・千葉市長:熊谷俊人の日記 - ブログ
http://kumagai-chiba.seesaa.net/
・熊谷俊人(くまがいとしひと)公式Webサイト
http://www.kumagai-chiba.com/
・千葉市:公式サイト
http://www.city.chiba.jp/

(聞き手・山下剛、写真・山下真史)



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