『Fate』アーチャーが操る雌雄一対の双剣“干将・莫耶”ってどんな武器なの? 名剣に隠された古代中国から伝わるふたつの悲劇の伝説とは
ニコニコニュース / 2024年3月25日 18時30分
「Fate」シリーズに登場するサーヴァント・アーチャーの武器として登場する名剣「干将(かんしょう)・莫耶(ばくや)」をご存知でしょうか?
今回紹介する、れぎゅらーさんがニコニコ動画に投稿した『【ファンタジー武器をゆっくり解説】第五回 干将・莫耶』という動画では、音声読み上げソフトを使用して、同人ゲーム『東方Project』のパチュリー・ノーレッジとレミリア・スカーレット、フランドール・スカーレットの三人のキャラクターが、ファンタジー作品に登場する、二本で一対の剣「干将・莫耶」の歴史について解説を行っています。
名剣「干将・莫耶」は二本で一対の剣
パチュリー:
干将・莫耶は中国に伝わる2本の名剣よ。名前の由来は製作者夫婦の名前だとされているわ。夫である干将を陽剣、妻である莫耶を陰剣としているの。
陰陽とはこの世のありとあらゆる物は、陰と陽の二つに分ける事が出来るという中国の思想ね。
この考えでは女性は陰、男性は陽と定められているわ。他にも植物は陰、動物は陽、秋と冬は陰、春と夏は陽、偶数は陰、奇数は陽、左は陰、右は陽などなどね。
フランドール:
うへぇ複雑……。パチュリー:
まあ陰陽説は主題から外れるから置いておくわ。とにかく、干渉と莫耶は陰陽で一対の剣ということよ。
「干将・莫耶」という名前はこの剣を製作した夫婦の名前からきており、女性は陰、男性は陽という中国の思想から干将・莫耶は陰陽で一対の剣ということが分かりました。視聴者からは「勘違いしやすいのがキリスト教の善悪の様に対立関係ではなく互いに補完し合う関係で表裏一体」「2つに分けても陽には陰を含み陰には陽を含む、実際のところ気一元論であって陰と陽の二元ではない」といったコメントが寄せられました。
製作経緯と過程が書かれている『呉越春秋』
パチュリー:
干将・莫耶のエピソードは主に三つの書物の中に記載されているわ。
最初に取り上げるのは1世紀後半から2世紀前半頃に執筆されたとされる『呉越春秋』という本よ。この本は執筆当時よりさらに500年ほど前、中国春秋時代に興った、呉と越という国の興亡に関する歴史書ね。
フランドール:
という事は今から2400年近く昔の出来事なんだね。レミリア:
アーサー王よりも古い歴史があるのね。パチュリー:
『呉越春秋』の中では、主にその製作経緯と過程が語られているわ。
鍛冶職人であった干将は当時の呉の王であった闔閭(こうりょ)から「二振りの剣を鋳造せよ」との命を受けるわ。干将は最高の材料を揃え、最高の条件のもと制作に取り掛かるわ。しかし中々鉄が溶けず、依頼されてから3ヶ月が経過してしまうの。
フランドール:
随分のんびり屋さんだね。
パチュリー:
困った夫婦は自らの師が同じ状況になったとき、炉に身投げをして炉の温度を上げ鉄を溶かしたことを思い出すわ。レミリア:
ええええええ!?
パチュリー:
材料と思われる鋼の融点はおおよそ1,100℃、炉の温度が上がらなかったとはいえ、1,000℃近い温度が出ていたはずよ。そんなところに身を投げれば、どうなるかは想像に難くないわね。とにかく進退窮まった夫婦、しかし身投げは流石に躊躇したわ。そこで妻である莫耶は自らの爪と髪を炉に投げ入れる事にしたの。更に夫婦は子供を300人ほどかき集めてふいごを吹かせたの。すると炉の温度は上がり、何とか鉄を溶かせるまでに至ったわ。
レミリア:
300人とはまた大きく出たわね……。
パチュリー:
なんやかんやあったけど、こうして二振りの剣が完成したわ。夫妻は剣に自らの名と同じ銘をつけたのだけど、そのうち干将は隠し、莫耶だけを闔閭に献上したの。ある日、魯という国の使者が闔閭のもとを訪ねたとき、闔閭は献上された莫耶を使者に見せたの。使者が鞘から莫耶を抜くと、莫耶には刃こぼれがあったの。それを見て使者は呉の国の滅亡を予測した、というのが『呉越春秋』におけるエピソードね。
レミリア:
なんというか……言っちゃ悪いけど話としては案外地味ね……。フランドール:
そういえば『呉越春秋』は歴史書って言ってたよね? という事はこの話は実際に有ったって事?パチュリー:
確かに史実と符合する部分も多いのだけど、史実とは思えない不思議な話や占いに関する記述なども多く見受けられる為、歴史書としての価値は同時期に執筆したとされる越絶書の方が高いのよ。なので干将・莫耶におけるエピソードが実際に有ったという証拠にはならないわね。
中々溶けない鉄に自らの師が炉の温度を上げるために身投げしたことを思い出したが、流石に躊躇し爪と髪を投げ入れました。コメント欄では、「炭素を増やして温度を上げるため」「熱エネルギー発生しないもの入れても燃やすための熱を奪うだけで逆効果にならないか」といった意見も。
「干将・莫耶」の材質はウサギの内臓!?
パチュリー:
次に取り上げるのは『拾遺記』よ。この本は390年ごろに原本が執筆された志怪小説よ。フランドール:
しかいしょーせつ?パチュリー:
今で言うところのミステリー、SF、ホラーをあわせたジャンルといったところかしらね。この本の中にも干将・莫耶が造られた経緯が記されているのだけど、今回はその材質について具体的に述べられているわ。レミリア:
え? 鉄じゃないの?パチュリー:
鉄っぽい素材って感じね。フランドール:
えーなんだろう?
パチュリー:
ウサギの内臓よ。レミリア:
全然鉄じゃねぇ!!
パチュリー:
より正確には剣とか防具とかを食いまくったウサギっぽい生き物の内臓ね。レミリア:
余計に分からんわ!! しかもウサギですらないんかい!!パチュリー:
まあまあ落ち着いて。『拾遺記』にはこのように書かれているわ。
昆吾山というところに、ウサギぐらいの大きさの獣がいたの。その獣のオスは黄金色の、メスは白銀色の美しい毛並みを持っていたわ。
フランドール:
一応もう一回聞くけど、ウサギではないんだよね?パチュリー:
ウサギぐらいの大きさの獣ね。フランドール:
わかった……続けて?
パチュリー:
その獣は金属が大好物だったの。ある時、この獣は呉の国の武器庫に侵入、あらゆる武具を食い尽くしてしまうわ。
呉王は部下に命じて獣を捕え、腹を割いて調べさせたわ。するとその内臓はまるで金属のような光沢と堅さをもっていたそうよ。そしてこの金属で作らせた剣が干将と莫耶というお話よ。つまりこの剣は生ものと言っても過言ではないという事になるわね。
レミリア:
ならんわ!! いや……でも内臓なのか……?
剣や防具を食べたウサギのような獣の内臓が材質だという話に、「昔のこのフリーダム感すき」といったコメントが。
「干将・莫耶」にまつわる歴史は壮絶な復讐劇だった!?
パチュリー:
『呉越春秋』にて製作経緯、『拾遺記』にて材料が語られ、最後に取り上げるのが『捜神記』よ。『捜神記』も『拾遺記』とそう前後しない時期に執筆された志怪小説よ。正確に言うと『拾遺記』よりも先に執筆されているのだけど、話の流れを考えて、『捜神記』を最後に説明させてもらうわね。この『捜神記』では干将・莫耶製作後のエピソードが書かれているわ。そしてそのエピソードを一言で纏めるなら復讐劇ね。
フランドール:
復讐劇……!レミリア:
ここからが本番って感じね!パチュリー:
一応言っておくけど、ちょっとグロテスクな表現があるから注意してね。レミリア:
う……分かったわ。パチュリー:
舞台は「楚」という国に変わるわ。楚は呉と同時期に存在していた国で、以前は呉と同盟関係にあったのだけど、その後敵対、時代背景としては敵対後になるわね。
干将、莫耶夫妻は楚王から雌雄一対二の剣を作れとの命を受けるのだけど、制作に難儀、3年の歳月を経てようやく完成するわ。
あまりにも製作に時間が掛かってしまったため、干将は楚王が激怒し自分を殺すのではないかと考えたわ。その時妻の莫耶は子供を身ごもっていたの。死を覚悟した干将は莫耶にこう言い残すと、完成した雌剣の莫耶だけを持って楚王のところへ向かうの。
「あまりにも時間がかかり過ぎた。楚王は激怒し、私を殺すに違いない。莫耶。もしお前が男の子を生んだなら、成長した後に南の山を見ろと言いなさい。そこには石の上に松が生えており、その石の後ろに剣を隠してあると。」
楚王と謁見した干将、製作が遅れた挙句一本しか持ってこなかったと知ると楚王はいよいよ激怒、すぐさま干将を殺してしまうの。
フランドール:
うぅ……パパぁ……。
パチュリー:
その後妻の莫耶は無事男の子を出産し、赤(せき)という名をつけたわ。赤はすくすくと成長していくのだけど、成人するころに自分に父が居ない事に疑問を持ち、それを母である莫耶に尋ねるの。莫耶は父の遺言を伝えたわ。そして遺言どおりの場所で雄剣干将を発見、赤は父の敵討ちを心に誓うわ。
しかし、その頃楚王は夢で自身を恨む存在がいること、それはかつて殺した干将の子である赤で、敵討ちをしようとしていることを察知、赤をお尋ね者として懸賞金を掛けてしまうの。
レミリア:
エスパーかよ……。パチュリー:
自身に懸賞金が掛けられている事を知った赤は身を隠すのだけど、行くあてはなかった。赤は山に逃げ込むのだけど、自身の状況を憂い大泣きしたの。そこに一人の旅人が通りかかるの。旅人が赤になぜ泣いているのかと問うと、赤はこれまでの経緯を旅人に話したの。話を聞き終えた旅人は、少し考えると赤にこう告げるの。
「お前の敵討ち、私が果たしてやろう。しかしそれには二つ用意してほしい物がある。一つはお前の持つ剣、もう一つはお前自身の首だ。」
フランドール:
首!? いったい何で!?パチュリー:
仇を取るためにはまず楚王に会わなければ話にならない。しかし一介の旅人が時の王と何の接点もないのに会えるはずがないわ。そこで旅人は赤に懸賞金が掛けられている事を利用したのよ。これを聞いた赤は旅人の提案を承諾、自ら首をはねたの。首をはね、赤は息だえたわ。しかし執念か憎悪か、その体は首をはねても直立し倒れなかった。旅人は赤の首を持ち、「約束は果たす」と告げるとようやく体は地に伏したわ。
レミリア:
尋常ならざる覚悟のなせる技、なのかしらね……。パチュリー:
旅人は赤の首を持ち、楚王のもとを訪ねたわ。赤が死んだ事を知ると楚王は大層喜んだそうよ。
喜ぶ楚王に対して、旅人は「これは勇士の首であるから、湯で溶かさなければならない」と言い、楚王もそれに従ったわ。
フランドール:
ひえ……。レミリア:
何のためにそんな事を……。パチュリー:
これは推測だけど、ここで言う勇士は「勇敢な者」という意味ではなく、「強い意志を持った者」という意味なのではないかしら。こんなに強い意志を持った首をそのままにしておけば、いずれ祟り等の災いをもたらすかもしれない、だから煮溶かすべきだと。
こうして赤の首は火にかけられた、しかし三日三晩煮ても首は溶けるどころか湯から顔を出し、楚王を睨みつけていたの。旅人は楚王に対して「王が湯を覗き見れば必ずや首は溶け落ちましょう」と言ったわ。
そこで王は自ら湯を覗きに行くのだけど、旅人はその隙を見逃さなかった。隙をついて雄剣干将を抜くと一閃、楚王の首を刎ね飛ばしたわ。そして楚王の首は赤の首が煮られている湯の中へと落ちたの。
楚王の家臣達はすぐさま旅人に詰め寄るの。しかし旅人は「分かっている」とだけ発すると自らの首をはねたわ。そしてその首も湯の中へと落ちていくの。
まるで敵討ちが成されたことを確認したかのように、楚王を睨みつけていた赤の首は湯の中に溶け落ちていったわ。楚王と旅人の首も煮溶け、それらは混ざり合ってしまったの。
レミリア:
うぅ……ちょっとグロい……。パチュリー:
王を埋葬しようにも判別できなくなってしまった。困った家臣達はそれら全てを一緒に埋葬することにし、その墓は「三王墓」と言われるようになったわ。そしてその墓は今も宜春県という場所にある。という一文でこの話は締められているわ。これが『捜神記』におけるお話ね。
フランドール:
壮絶、だね……。
自らの命を懸けて復讐を心に誓った干将の息子・赤、復讐の約束を果たした旅人も亡くなってしまいました。視聴者からは、「義理と仁義のためなら命を惜しまず、って考えだったんだろうなぁ・・・」「三人とも死亡とは壮絶だな」「どこの国々でも争乱の時代が続けば人命は軽くなり名や利・讐が重要視され一言が重きをなす」といったコメントが寄せられました。
干将を殺した楚王のモデルは?
パチュリー:
ちなみに『呉越春秋』では闔閭という特定の人物名が出ているのだけど、『捜神記』の方では楚王とだけ記載があり、どの王かは明記されていないわ。ただある程度の推測は立つのよ。まあとはいっても私の見解だけどね。まず赤は成人してから父の仇の存在を知るわ。まあこれは成長してからとか壮年になってからとか訳されているから結構曖昧ではあるのだけど。
ただ一つの区切りとして成人後と考えるのは無理はないと思うの。そして作中の時代、中国の成人年齢は20歳だとされているわ。
話から十分察することが出来るように、赤の恨みは相当なものよ。そこから考えると、父を殺した王は赤が成人した時もまだ在位していたと考える方が自然なのではないかと思うの。
楚の歴代君主46人のうち、20年以上在位していたという記録があるのは14人よ。そして闔閭が君臨していた時期とそう前後しない時期に20年以上の在位期間を持つ王が存在するの。それが昭王よ。
しかし、昭王は儒教の始祖として有名な孔子によって、王としての道徳を理解する人物だと絶賛されているわ。昭王の人柄と『捜神記』の楚王とはあまりに合致しない。
ただ、昭王の前に在位していた平王という人物が居るのだけど、この人物は家臣の復讐をきっかけに亡くなっているわ。このことから、『捜神記』の楚王は昭王に平王の人柄を与えた人物がモデルなのではないかと考えられるの。
もっとも、これは当時の時代背景と歴史的事実から推測したものにすぎないし、『捜神記』は先に述べたように志怪小説だから、完全な創作と考えた方が自然だわ。もしモデルがいたならば、と考えた上での個人的意見だと受け取って頂戴。
フランドール:
なんというか、今までの武器とは違った気分だね。リアリティというか……。レミリア:
神様とか呪いとか出てこないから、そう感じるのかもしれないわね。パチュリー:
そうね。ただ私は思うのよ。結局は莫耶ただ一人残されてしまったわけじゃない? 夫を亡くし、最愛の息子も復讐の炎に身を焼かれてしまった。遺産とも言える雌雄の双剣も莫耶の手に渡ることは無いわ。それどころかこの剣はついにただの一度も揃って使われる事がなかった。そう考えると少し寂しげな話よね。
一度も揃って使われる事がなかった双剣「干将・莫耶」。「そういや剣自体は特に何かあるわけじゃないんだな」「中華史書は人間の恩讐や多様な生き方等少々ヨーロッパよりも人間の生々しさが強い感じがする」といったコメントが寄せられました。
『【ファンタジー武器をゆっくり解説】第五回 干将・莫耶』
https://www.nicovideo.jp/watch/sm32207967
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