理想と現実のはざまで……代表選に見る立憲民主党の“成熟度”
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年9月12日 12時0分
「報道部畑中デスクの独り言」(第383回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は「立憲民主党代表選挙」について。
自民党総裁選が告示され、史上最多の候補が鎬を削る構図となりましたが、今回はそれに先立ち、火ぶたが切って落とされた立憲民主党の代表選挙について触れます。
候補となったのは野田佳彦氏、枝野幸男氏、泉健太氏、吉田晴美氏。旧民主党元代表、前代表、現代表、1回生議員の戦いとなります。吉田氏は告示日の9月7日に「滑り込み」での出馬となりました。
告示日当日、午前の記者会見に続き、午後には日本記者クラブ主催の討論会が開かれ、4人は自らの強みを表現しました。
「厳しい判断を積み重ねてきた経験がある。自分の後ろには最後に相談する人が誰もいない、重圧と孤独に耐えてきた。そういう経験値を活かしていきたい」(野田氏)
「危機に対応した経験、危機に強いと自負している。東日本大震災の官房長官、“希望の党騒動”どちらも大変な危機に対して対応できた」(枝野氏)
「最も厳しい党勢の中からの3年間を担った。政権交代前夜と言っていただけるまで
この党をもってきた。そういう党をつくることができたことを誇りに思っている」(泉氏)
「リーダーに必要なことはすべての政策に精通することではない。決断力、人を見る目はあるのではないか」(吉田氏)
選挙戦で主な論点は「政治とカネ」。これまでの自民党の姿勢に対する批判を各候補繰り広げていますが、私はこの日の討論会を見て、別の感慨を持ちました。それは一部の政策について、現実路線の人と、理想論を掲げる人がこれまでに比べてはっきりしていたということです。
まずは消費税、物価高で国民の生活が厳しい中、税率の引き下げを求める声が少なくありませんが、4候補の主張には温度差がありました。
「国家財政を預かる立場を経験している。軽々に引き下げる話をそうですかと言える立場ではない。1回下げたら戻すのは大変。複数税率よりは、所得控除から給付付き税額控除につなげていく、消費税還付法案が到達点だと思う」(野田氏)
「消費税率を下げると、高所得者にも効果が及ぶ。所得のない人にターゲットを絞った戻し税が良い。早くインボイスをやめないと中小・零細事業者は困る。物価の状況を見れば、消費税を下げても焼け石の水。給付で低所得者をしっかりと支えるべき」(枝野氏)
「時限的な場合の難しさ。いつ発動していつ辞めるか、手間や負担も考えなければいけない。時限は相当難しく、恒久的に直間比率を党として政府と議論すべき」(泉氏)
「(消費税減税、食料品非課税)は時限的な立場。消費を喚起する3年間を考えている。食料品については収入が低い世帯には重い。税の公平性、勤労世帯、現役世帯の家計に響いてくる」(吉田氏)
続いて原発に対する認識です。
「デジタル需要などで電力需要は右肩上がり、再生可能エネルギー普及の進捗状況を考えると、原発に依存しない社会を実現にする表現にした、理想を掲げながらどう現実的に対応するか」(野田氏)
「原発に依存しない社会を目指すことを強調すべき。既存の原発廃炉や使用済み核燃料の処理、技術者育成は100年単位だ。原発ゼロを目指すと言ってしまうとすぐに安全になるという誤解を招く。そこは気を付けるべき」(枝野氏)
「すべてクリアしたものは動かすのはあってよいこと。高い目標、理想を掲げるだけでは何も変わらない。原発ゼロが先に来るのではなくて、再生可能エネルギーに力を入れ、原発がなくてもよい社会をつくらなければ原発は動き続ける。現実をみて歩むべき」(泉氏)
「できないと言っていたらいつまでもできない。原発のない社会を目指すことは党是でもある。新しい産業や技術革新、再生可能エネルギーについても機器を輸入に頼っている。ここから変えたい」(吉田氏)
かつて政権を担った候補者からは経験に基づく「現実路線」の発言が目立ちました。このような発言があると「官僚べったりだ」「役人に取り込まれた」などと批判する声もありますが、そもそも、政治家と官僚は敵対する関係ではありません。利害が対立することもあり、一定の緊張感は必要ですが、それを調整し、国を正しい方向に導いていくことが本来の姿だと思います。
もちろん「理想論」を語る人を否定するものではありません。あるべき姿を語る姿勢は必要です。しかし、これまた多様性、人それぞれに違う理想があります。それを調整し、皆が納得できる現実的なものとして落とし込んでいくのが政治です。理想を各々が勝手に主張するのは、誤解を恐れずに言えば「評論家団体」に過ぎません。そうした立場が自由闊達で居心地がいいと言う人もいるでしょうが、政権を担うのであれば、評論家団体からの脱却が必要となるでしょう。今回の代表選で、現実的な解を模索する手法を身に着けた人が出てきたのであれば、党も成熟の一歩を踏み出したと言えるのではないしょうか。「悪夢」と言われた旧民主党政権も決して無駄ではなかったということになります。
一方、立憲民主党には依然として安全保障や憲法に関する姿勢が見えてきません。何よりも決定的に欠けているのは党内をまとめるガバナンス(統治能力)です。それは「政治とカネ」に関するガバナンスとは違う次元のものです。旧民主党政権時代は、結論がなかなかまとまらず、日付をまたいで未明まで議論がもつれ込むことがしばしばでした。そのたびにメディアは、議論が行われている部屋の外の廊下で、終わりをじっと待つ日が続きました。自民党にもこうした「ゴタゴタ」はありますが、その混乱ぶりは自民党の比ではなく、いつしか「決められない政権」というレッテルを貼られました。内閣支持率は低迷。党も分裂し、政権は3年あまりで終焉しました。
理想と現実のはざまで揺れ動くのは立憲民主党のみならず、政党の常ではありますが、今回選ばれる代表に求められるのはガバナンスだと断言します。それが確立されれば、さらなる成熟を促し、自民党にとって大きな脅威となり得るでしょう。
(了)
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