より多くの人が楽しめる“共遊玩具”とは
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年12月26日 9時51分
こんにちは、ニッポン放送アナウンサーの前島花音です。
過日のクリスマス、おもちゃ売り場へ足を運んだ方も多いと思いますが、おもちゃのパッケージに表示されている“盲導犬”や“うさぎ”のマークを見た事はありませんか? こういったマークがあるおもちゃは「共遊玩具」というもので、共に遊ぶと書いて、“共遊”玩具です。
この“共遊玩具”とはどんなおもちゃなのか、どうして開発されたのか、取材した模様をお伝えしていきます。
まず、共遊玩具とは何なのか。一般社団法人 日本玩具協会のホームぺージの説明には、「目や耳の不自由な子もそうでない子も、障害の有無にかかわらず、楽しく遊べるよう「配慮」が施された玩具で、一般市場向けに造られ販売されるものをいいます」と書かれています。
つまり、一言でいうと、「町のおもちゃ屋さんで売っているより多くの人が楽しめるおもちゃ」です。
日本玩具協会の審査に合格した共遊玩具のパッケージには、目の不自由な子どもたちも楽しめるように配慮されたおもちゃには「盲導犬マーク」、耳の不自由な子どもたちも楽しめるように配慮されたおもちゃには「うさぎマーク」が表示されています。
今回取材させて頂いたのは、大手玩具メーカーの株式会社タカラトミー。共遊玩具の開発を30年以上行っており、現在は300種類以上の共遊玩具を発売しています。
タカラトミーで共遊玩具が開発されるようになった最初のきっかけは、1980年。障害がある子どもたち専用のおもちゃをつくるための研究が開始されました。
市場が大変小さかったためそのようなおもちゃの開発は困難になり、取り組みを中止することも考えられたそうですが、この活動に真剣に取り組んでいた社員の想いから新たなアイデアが生まれました。
一般向けに販売するおもちゃに障害のある子どもたちも楽しく遊べるように工夫をしたら、より多くの人が楽しめるおもちゃが作れるのではないか、というアイデアです。これが共遊玩具誕生のきっかけとなりました。
ご自身も視覚障害者であり、タカラトミーで共遊玩具の開発や普及に携わっている高橋玲子さんにお話を伺いました。
「障害のある子どもたちだけのことを考えて専用のおもちゃを作れば、子どもたちのニーズに合ったとても良いものはできるかもしれませんが、市場が小さすぎるので事業としては成り立たず、結局売り続けることはできずに、本当に欲しい人たちのもとへ広く届けることはできない可能性が高くなってしまいます。
それであれば、一般向けの商品にできる限りの工夫をしてより多くの子どもたちが楽しめるものを世に出していったほうが良いのではないか、というのが共遊玩具の考え方です」
1990年、タカラトミーで共遊玩具として最初に開発されたのは「テトリス」です。盤ゲームになっていて、それぞれのブロックが立体的になっています。並べたブロックの位置を触って確かめてもずれてしまわないように作られ、目の見えない子供たちも手で状況を確認しながらゲームを楽しめるような工夫がされました。
高橋さんが最初に開発に携わった共遊玩具は、30種類の曲と様々なリズム楽器の音を鳴らして楽しむことができるカラオケマイクのおもちゃだったそうです。
今は会社全体の玩具開発に初期から関わり、一つでも多くの共遊玩具を送り出せるように開発担当者をサポートするほか、おもちゃの情報をより多くの人たちに伝える活動や、ユニバーサルデザインの商品を作りやすくするための仕組みづくりなど、様々な役割を担っています。
はじめは玩具開発の経験がないまま、障害当事者であるということだけで共遊玩具を作るためのアドバイスをしなければならなかったという高橋さん。なかなか提案が実現せずに悩んだあげく、実際に開発に携わらなければどういったアドバイスが有効なのかが分からないと感じ、入社3年目に幼児向け玩具の部門へ異動を希望しました。
玩具を開発するにあたり、高橋さんが最も苦労した点は、「安全性の担保と、子どもたちが楽しく扱いやすいおもちゃをつくることの両立」だと言います。
高橋さんが最初に開発したカラオケのおもちゃは、マイクにマッチ箱ほどの大きさのカートリッジをセットして遊ぶ仕組みになっていました。一つのカートリッジに10曲分のカラオケが入っていて、おもちゃには三つのカートリッジが付属しています。
そのカートリッジをなくしてしまったり、おもちゃ箱の奥に入り込んで探せなくなってしまったりするのを防ぐため、三つのカートリッジを紐でつないでまとめ、おもちゃ本体にもつないでおけるようにしたいと考えたのだそうです。
しかし、安全チェックの際、その紐の長さでは子どもの首に巻きつき事故につながる可能性があり、非常に危険なことが分かり、案は再検討に。共遊玩具であるかないかに関わらず、おもちゃに何か工夫をしようとしたときに、コストだけでなく安全の問題などで出来ないこともたくさんあるんだと痛感した最初の経験だったと仰っていました。
安全を担保しながら、子どもたちにとって、より扱いやすく、より楽しいおもちゃを作り上げていくために、おもちゃの開発担当者は日々奮闘しているのだと教えてくださいました。
現在高橋さんは共遊玩具をより広く知ってもらうため、大学などで学生さんたちに共遊玩具について講演すると共に、実際にタカラトミーのおもちゃを使いながら「どう工夫したらより多くの子どもたちが楽しめる玩具になるか」を参加者に考えて発表してもらうワークショップも行っています。
今回、実際に共遊玩具として発売されているおもちゃを手に取りながら、工夫について教えていただきました。
まずは「リカちゃんシリーズ」です。リカちゃんのセットでは、小さなコップやお皿、おしゃれなグラスなどをテーブルに並べて食事の場面を再現するなど様々なごっこ遊びが楽しめます。
目の見えない子どもたちも日常生活が再現できるミニチュア玩具は大好きなのですが、細かいパーツはちょっと手で触ると動いてしまったり倒れてしまったり、思うように楽しめないという課題があります。
そういった課題を解消するため、テーブルの盤面にくぼみ、コップやお皿などの底に出っ張りをつけて、置いたものがテーブルにかちっとハマるよう工夫しました。写真のようなくぼみにはめることで、もう机から小さなパーツが落ちてしまう心配はありません。
くぼみとでっぱりの寸法は、お家のセットやキャンプのセット、お医者さんごっこのセットなど、通常の全てのリカちゃんシリーズで共通にしているため、新たにセットを買い足しても組み合わせて遊ぶことができます。
また、リカちゃんの妹マキちゃんとミキちゃんは、触っても判別できるよう髪型や口元を変えることでわかりやすく工夫されています。
続いては、「にぎやかサウンド♪黒ひげ危機一発」です。タル状の本体の穴に順番に剣を刺し込み、タルの上にセットされた黒ひげ人形が飛び出したら負け、というゲームです。
自分も遊んだことがある!という方も多いおもちゃだと思いますが、こちらにも、より多くの子どもたちが楽しめるように工夫がされていました。
4色ある剣の持ち手の形を色ごとに変えることで、触っても色の違いがわかるようになっています。剣を差し込むタルの穴は、ふちを坂状にして、剣がするっと入るよう工夫されています。また、剣を差し込むと、ニワトリの鳴き声やバネが跳ねたような音色など、様々な楽しい音が鳴るようになっています。
ですので、おもちゃの名前の頭には「にぎやかサウンド♪」というワードもついています。
目が見えなくても、相手が剣を差し込んだ瞬間を楽しい音で知ることができ、黒ひげ人形が飛び出す時には楽しいファンファーレが鳴るので、負けてしまって黒ひげが飛び出してきてもあまり怖がらずに済むかもしれませんね。
(こちらの「にぎやかサウンド♪黒ひげ危機一発」と同サイズでピカチュウの声がたくさん入った「にぎやかサウンド♪ピカチュウ危機一発」については、実際に遊んでみた様子を前島のSNSにアップしていますので、よろしければチェックしてみてください!)
3点目は「トミカを運転!ハンドルドライバー」です。ハンドルを操作していろいろなドライブ体験ができるおもちゃで、フロントガラスを模した画面に上部の形が異なるシートを差し込むことで、運転席から見える景色、運転している車の種類が変わります。
目の見えない子どもたちにも運転の楽しさを味わってほしい、と願って工夫を盛り込みながら開発されたこちらのおもちゃ。差し込むシートによってパトカー、消防車、レーシングカーとそれぞれ運転のミッションが変わり、状況は音声でも説明されます。
「上の部分が四角いシートを使うぞ!」「犯人を追跡しよう!右だ!」といった音声が流れるので、目が見えない子どもたちもミッションを遂行し楽しむことが出来ます。
他にも、操作ボタンがレリーフ状になっていて、硬貨や紙幣の種類も触って分かり、表示される数字なども声で教えてくれるレジスターのおもちゃには、できるだけリアルな触感にしようとこだわった小物も入っています。
動物や昆虫の体を細かく表現したフィギュア「アニア」や、様々な車をミニチュアにした「トミカ」も、目の見えない子どもたちが、普段なかなか触れない生き物や車の全体像を知ることのできる貴重な共遊玩具です。
普段見た事があり知っているおもちゃにも隠れた工夫が詰まっていることが分かりました。
タカラトミーは、電源スイッチのON 側に凸点を付けてどちらがON なのかを触ってもわかるようにしたり、電池蓋を開閉するためのネジ穴の周囲に凸状のリングを入れ他のネジ穴と触っても区別できるようにして、視覚に障害がある人も玩具を操作しやすくする工夫「小さな凸」を、2024年度からは共遊玩具にとどまらず、タカラトミーグループすべての電子玩具製品に適用することを発表しました。
当時の経緯について、高橋さんは「共遊玩具ではない、目の見えない子どもたちには楽しめないかもしれないおもちゃなのに、スイッチや電池ボックスだけに工夫をしても意味がないのでは?というご意見をいただくこともありますが、お家で子どもたちのためにおもちゃの操作や電池交換をしている、育児中の目の見えない大人たちはたくさんいますし、目の見えない子どもたちも、共遊玩具ばかりで遊んでいるわけではありません。
「凸表示」はやれないことではないのだから、タカラトミーグループとしてはできるだけすべてのおもちゃに付けていこうよ、ということになったんです」と語ってくださいました。
共遊玩具は特別な人向けではなく、より多くの子どもたちが楽しめることを願ったおもちゃ。そして、子どもたちだけでなく、障害のあるご家族にも扱いやすいおもちゃになるように工夫することも、より良いおもちゃづくりの大切なポイントだと、タカラトミーでは考えられています。
共に遊ぶと書く共遊玩具。あなたの身の回りにも沢山ある“盲導犬マーク”や“うさぎマーク”を見つけて、おもちゃに隠れた工夫を是非探してみてくださいね。
最後に、タカラトミー共遊玩具のHPにあるメッセージをご紹介します。
“タカラトミーのおもちゃで一度遊んでみてください。障害のあるなしに関わらず、共に遊べる工夫がいろいろなところにされています。違いを超え、個性を尊重し、共に遊ぶ楽しさを経験した子どもたちは、皆が共に生きられる社会をつくる大人へと成長してくれると私たちは信じています。“
※ご紹介した商品の一部は、生産終了品のため、お求めいただけない可能性がございます。
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