日産、いばらの道か? ホンダから突き付けられたハードルは待ったなし
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年12月25日 13時0分
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」【第395回】
「市場環境の変化 当社固有の課題の影響を受けた結果になった」
2024年9月中間決算で純利益前年同期比93.5%減、2024年度世界販売台数見通しを365万台から340万台の下方修正、2025年3月通期業績予想の純利益は「未定」、そして世界で人員9000人削減……。
衝撃的な発表となった11月7日の日産自動車の決算会見では、オンラインで画面越しから内田誠社長の深刻な表情が伝わってきました。あれから約1か月半、事態は風雲急を告げます。
12月23日午後5時、東京・京橋のホールスペース、約100席の記者席は受付開始後、たちまちにして埋まり、新たに席が設けられるほどの注目度でした。会見場檀上は記者席から見て左から、日産自動車、ホンダ、三菱自動車。ホンダの三部敏宏社長が“センター”という配置で記者会見が始まりました。
「経営統合に向けた協議に正式に開始することについて合意に達し 基本合意書を締結した」
ホンダの三部社長の口調は淡々としたもの。会見ではあわせて三菱自動車が経営統合に合流するか検討を開始することも明らかにされました。判断のリミットは来年2025年1月末となります。
ホンダと日産の経営統合によって「車両プラットフォーム共通化」「研究開発機能の統合」などの相乗効果が想定されるとしています。統合が実現した場合は共同持ち株会社の下で進められ、取締役の過半数をホンダが指名することも示されました。さらに、来年2025年6月に最終合意、再来年2026年8月に共同持ち株会社の上場、ホンダ・日産両社の上場廃止というロードマップも描かれました。
「新たな価値創造に挑む、モビリティの新価値を創造するリーディングカンパニーとなること、これこそ両社が目指す姿であり、経営統合を検討する目的となる」(三部社長)
「車両の電動か知能化には巨額な投資が必要。スケールメリットは大きな武器になる。両社が力を合わせることで大きな相乗効果が期待できる」(内田社長)
両社とトップは経営統合による効果について力を込めました。統合により、世界第3位の自動車グループが誕生すると目されています。
ただ、ホンダの三部社長は、今回の発表は検討開始する枠組みを決めたもので、経営統合そのものを決定したものではないことも強調していました。そして、ホンダによる日産への支援ではないかという声は想定しているとした上で、厳しさをにじませました。
「日産とホンダが自立した二社として成り立たなければ、経営統合の検討は成就することはない。今回の合意は経営統合に関する検討を開始する段階で、実現に向けては議論する点が存在する。成就しない可能性はゼロではない」
今回の発表は国際競争に生き残るための第一歩という好意的な見方もあります。一方で、会見からはホンダが統合実現に向けて、日産に極めて厳しいハードルを突き付けたようにも見えました。経営統合はあくまでも日産の経営再建が前提である、それも約半年以内に……あたかも成績不振が続くプロ野球選手に下す「来季活躍しなければ、以降の契約はない」という最後通告にも似たものを感じます。
「今回の経営統合を成功させるにはそれぞれの会社がしっかりと自立し、より強くなることが不可欠。現在進めているターンアラウンド(事業再生)を着実に実行し、成果を一日も早く形にすることが当社の大きな責任」
日産の内田社長はこのように応じました。苦境は認識しているはずですが、果たして好転するかどうか……いばらの道が待っていると言わざるを得ません。
今回の経営統合検討の背景には、台湾の鴻海科技集団による日産買収の動きがあったことが指摘されています。会見では「事実はない」(内田社長)「報道で知っているぐらい。鴻海の動きはつかんでいない」(三部社長)と否定し、統合検討はあくまでホンダ・日産の二社で決めたと強調していますが、何らかの力が働いたとみるのは想像に難くありません。
ちなみに、鴻海にはかつての日産で社長候補と目された関潤氏がいます。カルロス・ゴーン氏の失脚、西川広人氏の辞任の後、新生日産のトップは内田氏に決定、関氏は日産のナンバー3、副COOになります。2019年12月の内田社長就任の記者会見では、内田氏とともに出席、「当社はモノをつくる現場、売る現場と経営層の間に大きな隔たりをつくってしまったと思う。この隔たりを少しでも詰めるために、協力して改善に努力していく」と話していました。ホンダからルノー、三菱自動車と渡り歩いたアシュワニ・グプタCOOとともに「トロイカ体制」で臨むはずでした。
しかし、関氏は1カ月足らずで退社、日本電産(現・ニデック)に移籍、社長を務めたのち、鴻海の電気自動車事業のCSO(最高戦略責任者)に就任します。関氏が日産を去った理由については縷々言われていますが、このような経緯を見ると、関氏の日産への逆襲という構図にも見えてきます。運命の皮肉というほかありません。
一方、冒頭お伝えした日産の苦境は、一言で言えば北米・中国市場の不振によるもの。北米では売れ筋になりつつあるHEV=ハイブリッド車が投入されず、中国ではEV=電気自動車の激しい競争に太刀打ちできていないというものです。
いわば商品力の低下です。「売れる車がない」「買いたい車がない」…それはゴーン体制の時から言われてきたことであり、小欄でも何度か指摘したことがあります。そのツケが一気に噴き出してきたとも言えるでしょう。HEVが投入できていないのも、元をただせば、ゴーン体制で「HEVはつなぎの技術」と切り捨て、EVに「全振り」したことにさかのぼります。
日本国内を見ると、マーチというコンパクトカーがありました。1982年に排気量1000ccの「リッターカー」として登場、車名は一般公募によるものでした。2代目は日欧のカー・オブ・ザ・イヤーに輝く名車となり、日産の屋台骨を支えました。その大切なマーチを日産は4代目で終焉させました。正確に言うと、マーチは欧州ではマイクラという車名で、2017年に5代目にモデルチェンジされましたが、日本市場では4代目のまま。大きな改良もなく、いわば「棚ざらし」の挙句、2022年で日本市場では販売終了となりました(欧州市場のマイクラも2023年に販売終了)。同様にキューブやジュークというコンパクトクラスの車種は整理されました。
しかし、このクラスは他社ではトヨタ・ヤリス、スズキ・スイフトなどの売れ筋もあり、決して小さなマーケットではありません。このクラスの需要をどうするのか、日産販売店の関係者に聞いたことがありますが、「ノートや軽のデイズ、ルークスに誘導する」と話していました。しかし、メーカーの都合良く、ユーザーは動きません。このクラスで選ぶべき日産車がなくなったユーザーの中には他社に流れた人もいると思います。
振り返ってみると、ここ10数年、ユーザーの気持ちに向き合ってきたのか……日産はいま一度見つめ直すべきではないでしょうか。内田社長は就任時から「日産の実力はこんなものじゃない」と話していました。技術はいまでも目を見張るものがありますが、経営に関してはこのままでは「こんなものだった」と言われかねません。
「この1年、今年度が勝負だ。今年度で、日産が求める経営資源や台数を考えれば、提携話があるとすれば、日産側から寄っていく可能性が高い」
半年前、自動車専門誌「マガジンX」の神領貢編集長へのインタビューの中で、神領さんはこのように話していました。この見立てが現実のものになりつつあります。持ち前の技術で再び浮上できるのか、日産ファンのみならず、多くの人が注目しています。
会見終了後のフォトセッションでは「ワンポーズのみ、ポーズのオーダーは受け付けない」という関係者の一言がありました。この手の会見で行われることが多い、社長同士が手を取り合う場面はありませんでした。
(了)
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