[社説]「砂川事件」請求を棄却 市民感覚失った判決だ
沖縄タイムス+プラス / 2024年1月16日 5時0分
裁判長は一体、どっちを向いて、そんなことを言っているのだろう。必死になって最高裁長官をかばっているとしか思えないような判決だ。
1957年、米軍立川基地(東京都)の拡張を巡ってデモの指導者らが基地に立ち入ったとして刑事特別法違反の疑いで逮捕された砂川事件。
東京地裁(伊達秋雄裁判長)は59年3月、「米軍駐留は憲法9条に違反する」との判断を示し、被告7人全員の無罪を言い渡した。
検察側は、二審を飛び越えて直接、最高裁に申し立てる跳躍上告に踏み切った。
この時期、政治の舞台では日米安保条約の改定交渉が始まっていた。
最高裁は59年12月、無罪判決を破棄した。差し戻し審で逆転有罪が確定する。だが、問題はそれで終わりではなかった。
最高裁判決から半世紀近くたった2008年から13年にかけて、砂川事件に関する衝撃的な内容の米公文書が次々に明らかになった。
マッカーサー駐日米大使は米国務長官宛ての極秘電で、藤山愛一郎外相に会って跳躍上告を勧める一方、田中耕太郎最高裁長官とも密談した。
最高裁長官が裁判の利害関係者と法廷外で内密に会い、審理開始から判決に至るまでの手続きなどを話し合ったというのである。
米側による司法への露骨な介入であるだけでなく、長官の行動は裁判所法第75条の秘密保持に違反する疑いが濃厚だ。
19年に元被告らが損害賠償を求めて提訴したのはこうした背景があるからだ。
■ ■
元被告らは「公平な裁判を受ける権利が侵害された」と主張する。
これに対し東京地裁は(小池あゆみ裁判長)は、「具体的な評議の内容や、予測される判決内容などの情報まで伝えていたとは認められない」と指摘。公平性を侵害する特段の事情はないとして違法性を否定した。
庶民感覚とかけ離れた恐るべき断定と言わなければならない。
最高裁長官がこの時期に当事者である駐日米大使と会ったこと自体、公平性への疑念を抱かせる行為である。
当時、この事実が発覚していたら、裁判は弁解の余地なく即アウトだっただろう。
司法は、最高裁長官の「疑惑の行動」によって失われた信頼を回復するのではなく、最上位の長官の行動をかばうことによって、ますます不信を助長させてしまった。
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基地拡張に反対した砂川町(現立川市)の住民は「土地に杭(くい)は打たれても、心に杭は打たれない」と主張した。
抵抗を続けた結果、米軍は拡張を断念し、77年11月、立川基地の全面返還を勝ち取った。
宜野湾村・伊佐浜の人々が反対運動の現場で掲げたのは「金は1年土地は万年」というむしろ旗だった。
砂川と沖縄をつなぐもの-それは土地への愛着であり、諦めないという抵抗の伝統である。
元被告らは判決を不服として控訴する方針だという。
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